堀部糸成の時間



『兄さん、今日もお疲れ様。あ、コート貰うよ』


……あぁ、懐かしい夢だ。
第三者目線と言うのが正しいこの状況。

これは僕の記憶だ。
……あの日の日常に戻りたいという、僕の本音が夢として今見ているのか。


視界に見えるのは、小さい頃の醜い姿の僕と、男性……僕の師匠だ。
師匠には名前がなかったから、僕はから『兄さん』と呼んでいた。


『兄さん、ちゃんと帰ってくるよね……?』

『私が誰かに殺されるとでも思っているのかい?』

『! そ、そんなつもりで言った訳じゃ……』


あの人は僕に対して何の感情も抱いてなかった。
……僕はあの人にとって道具のような存在だったのだろう。


『……うっ、ぐッ……!』

『それで私の後継者を名乗る気かい?』

『……っ、まだまだ……!』


それでもいい。
僕にとって兄さんは何にも変えられない存在なんだ。
例え兄さんにとって僕がどうでもいい存在であろうとも。


『ねぇ、あの人は……?』

『弟子だ』

『弟子……?』


僕が知らない所で突然現れた男。
それはまだ僕が殺し屋として歩む前にであった男。
年は……僕よりは上であるのは幼い自分でもわかった。

その男を見た時、僕は怖くなった。
もしかしたら僕はもう兄さんにとっていらない存在ではないのか、もう興味すらないのでは、と。
それが怖かった。


……僕が殺し屋を目指したのはそんな理由だ。
兄さんと一緒にいたい。それだけだった。


『兄さん……遅いな』


ある日。
兄さんは兄弟子がミスを犯したという連絡を受け、セーフハウスを出て行った。

……あまりに遅い。
距離があったとしても、これだけ帰宅が遅いだろうか。
そう思った時だ。


『は___?』


帰ってきたのは兄弟子のみ。
兄さんはいなかった。

そして兄弟子が口走った言葉に怒りが頭を支配した。


『ふざけるな……ふざけるな!!』


兄弟子は僕が兄さんに対して師匠以上の感情を持っていることを知っていたはず。
それを知った上であの男は兄さんを裏切った・・・・のだ。


『殺してやる……殺してやる!!』


結局その場であの男を殺す事はできなかった。
……それもそうだ。だって兄弟子は僕より殺し屋としての実力が上だったのだから。
あの時の僕が適うわけなかった。

だから僕は隙を見て兄弟子から逃げた。
……彼奴を殺す力を身に付けて、必ずこの手で死に追いやってやる。
そして、兄さんを必ず助ける。


……だって兄さんは僕を助けに来てくれた。
だったら僕も、兄さんを助けなくちゃ。

例えこの命と引き換えになろうとも。





2021/12/04


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