唐突に訪れた危機



「おまえら、おれのおじいちゃんを助けに来たのか?」


旅人たちとある程度情報を共有し終わり、いざ調査へという所で俺たちに声を掛ける幼い声が聞こえた。その人物はアアル村の子供で、名はイザークという。どうやら彼の言うおじいちゃんはグラマパラらしい。

何故グラマパラだと分かったのか。それはイザークが俺たちと村長の会話を聞いていたからということと、『助けに来た』という発言から推測した。本人は狂学者と言う呼び方を嫌がっていたが、グラマパラであることは間違っていないようだ。


どうやらイザークは祖父(正確には血のつながりはないらしいが、本人は実の祖父のように慕っているようだ)を探したいらしく、『おれも連れてってくれ』と頼み込んできた。

……盗み聞きされていたことに気づいていたか、だって?
勿論気づいていたさ。だが、敵意を感じなかったから放って置いた。結果、俺が感じ取った存在はイザークだったというわけだ。


「すごいな、これがマハマトラの嗅覚なのか……。でもセノ、相手はまだ子供なんだぞ! おじいちゃんを探したいだけみたいだし、手伝ってやろうぜ!」

「嘘はついてない! 盗み聞きしたのは、おじいちゃんがどこにいるか知りたかったからだ……ごめんなさい。それでも信じられないなら、キャンディスお姉ちゃんに聞いてみてよ」

「セノ、お願い」


どうやら旅人たちは噂通り、お人好しらしい。
……俺たちが依頼されたのはアアル村から消えたグラマパラの調査。一個人の捜索ではないんだが……まぁ、その人物はグラマパラであるわけだし、まったく意味のないことでもない。


「……分かった。ならまず、キャンディスに状況を確認しよう」


本人が言ってた様に、まずはキャンディスにイザークと、彼の発言について聞く事にした。パイモンが「これがマハマトラか……」みたいなことを言っていたが、いつもやっていることをしているだけなんだが。

そんなに珍しいものなのだろうか。そう思いながらも目的の人物がいる場所へと向かった。
目的の人物がいる村長の家へ入る前に、イザークに近場で待っているように伝え、中へ入る。そこにキャンディスはいた。


「あら、もうお戻りになったのですか」

「確認したいことがある。イザークという子供を知っているか?」

「ふふっ、やはりあなた方のもとへ行ったのですね」

「え? このことを知っていたのか?」

「頑張って隠れていましたが、窓の外で盗み聞きしていたのには気づいていましたから。あの子は本当に、祖父を見つけたいと強く思っています」


どうやらキャンディスも、イザークが盗み聞きしていることに気づいていたらしい。そして、その行動原理も。

彼女によると、イザークの両親はエルマイト旅団のメンバーで、スメールシティに行ったきりアアル村へ戻ってきていないという。そんなイザークを育てていたのは、血のつながりがある彼の本当の祖父だったそうだ。

だが、その祖父は数年前になくなってしまったらしい。当時、今より幼かったイザークは身寄りがいなくなってしまったのだ。そんな彼を村の住人が交代で世話をしていたそうだ。

そんなときにアアル村へやって来たのが、イザークが助けたいと言っていた祖父……グラマパラだった。その人物が亡くなった祖父によく似ていたからか、イザークはその人物を覗きに行っていたという。


だが、グラマパラ……狂学者と呼ばれるだけあって、その人物は精神に異常をきたしていた。訳の分からないことばかり口にしていたからか、イザークも怖がっていたようで、安易には近付かなかったそうだ。

……話にはなかったが、恐らく当時そのグラマパラはイザークの存在に気づいていなかっただろうな。


「ですがある夏の夜、いつもブツブツ言って変な動きをしていたはずの『おじいちゃん』が急に静かになり、遠くに隠れているイザークに気づいたのです」


キャンディスが語る話の内容が変わった。どうやらこれは、イザークがグラマパラを本格的に「おじいちゃん」と呼び慕うようになったきっかけの話だろう。


「『おじいちゃん』はイザークの傍に行って頭を撫でました。そしてあの子を村の入り口まで連れて行き、星を一つ一つ数え、見分ける方法を教えたのです。そうしてイザークに寄り添い、あの子が眠りにつくまで付き添っていました」


次の日の朝、イザークは目が覚めた後すぐにグラマパラを探したという。だが、彼はイザークを覚えていなかった。……でも、以前までの異常な様子は見られず、落ち着いていたらしい。

そんなグラマパラを見て、イザークは心から喜んだそうだ。
イザークは亡き祖父に似たグラマパラを、隠れて様子を見ている時でも心配していたんだ。気にかけていたんだ、少しでも正気に戻ったとなれば、嬉しいに決まっている。


「それからイザークは『おじいちゃん』に毎日付きまとうようになりました。『おじいちゃん、遊びに連れて行ってあげるよ! もっとお話しして!』なんて言いながら……」

「よくわからないけど、ちょっと悲しいぞ……。二人ともかわいそうだ……」

「そうかもしれませんね。砂漠で生活している者は多かれ少なかれ、みな困難を抱えています。しかしそれでも、我々は生き続ける。私もそのために戦い、ここを守っています」


……だが、話にあったある内容が気になった。
先程旅人たちと話したクラクサナリデビの行ったものと、今聞いた話があまりにも似ている。

もしや、イザークのおじいちゃんを助けたのはクラクサナリデビなのでは?


「……確かに、人々は良い神に恵まれているのかもしれない」

「ん? なんだって?」

「いや、なんでもない。イザークが約束通り足を引っ張らないでいてくれるなら、連れて行ってもいいだろう」

「あなたは私が思っていたよりもずっと、情のある方なのかもしれませんね。イザークの代わりにお礼を言わせて下さい、セノさん」

「俺は部下から優しいと好評なんだが……」


とは言っても、普段から世間話や雑談をする部下はナマエくらいだったが___そう思っていた時だ。


「うええぇっ!? な、なんだ!?」


突如、家の外から聞こえた大きな音。地震というには違う、砂嵐の音でもない。

……まさか、襲撃か?
何故? そして、誰がアアル村を襲っている?


「皆さんは此処へ! 様子を見てきます」

「俺も行く」

「オ、オイラたちも行こうぜ!」


急いで家から出て、先程の音の出所を探す。村の奥へと逃げ込む村人がやって来る方向を辿れば分かるはずだ。


「私はみなを避難させます。すみませんが、音の出所を見ていただけないでしょうか?」

「分かった。行こう、旅人」


逃げる村人をかき分けながら、俺たちは進む。場所は……アアル村の入り口。逃げ惑う村人たちも『村の入り口』という言葉を出していた。
……そこに先程の音を出した何かがある。


「村の人たちは、村の入り口に〜って言ってたけど、何もいないぞ」


アアル村の入り口へ到着したが、そこには何もいない。
もしや、砂嵐の後に出現した魔物がまだいたのか?


「……!」


気配を察知した身体が反応する。
その方向は___上!


「っ、くッ!!」


太陽を背にこちらへ落下してきた影。それは人の形をしており……剣を片手に持っていた。咄嗟に俺は愛武器である長柄武器を顕現させ、受け止めた。

一体誰だ?
こいつがアアル村を襲った人物か?

武器を受け止めたことで急接近した人物の顔を見てやろう、そう思って目線を上に上げた。


「! な……っ、どうしてお前が……!」


俺の視界に入った人物。
上から奇襲してきたその人は___。



「何の真似だ___ナマエ!!」


俺が最も信頼を寄せ、一人の女性として思いを寄せる存在___そして、アルハイゼンの言葉を受け、状況を不安視していた人物……ナマエだった。






2023/12/19


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