3:後天的アーティファクト


※ベネットデートイベントの内容を含みます。



ドラゴンスパイン某所に設けられたアルベドの研究所へ着いた私達。アルベドは少し奥にあった簡易的なベッド(恐らくアルベドがここに泊まるときに使用しているもの?)に少女をゆっくりと横たえさせた。
少しだけ少女の様子を見た後、アルベドはこちらを振り返った。


「さて、キミたちの質問に答えようか。ただし、ボクも分かっていないことがある。そこは了承してくれ」

「分かったぞ!」

「その前に、どうしてあの部屋にいたのか教えてくれるかい?」


私達の質問に答える前に、何故私達が少女を発見した部屋にいたのかを聞いてきた。代表してパイモンが答えてくれた。


「冒険者協会からの依頼、西風騎士団からの要請……あぁ、なるほど。確かにそんなものがあったね」


アルベドもその件については知っていた様子。だが、恐らく研究に夢中であまり気にしていなかったのだろう……。


「聞いていいかしら」

「勿論。そのような場だからね」

「貴方は彼女の存在を知っていたのかしら? ……わたくしは貴方達が無関係ではないと思っているのだけど」


1番にアルベドへ質問を投げたのはフィッシュルだ。その内容は私も思っていたことだ。


「それに、名前も知ってそうだったよな!」

「あぁ、それは彼女の服に名前が刻まれていたからさ」

「そんなことあるのかよ……」

「とはいっても、暗号化された文字で書かれていたんだ。所謂コードネームだね。ボクはそれを解読して彼女をそう呼んでいただけなんだ」


コードネーム。なんだかあまり良い響きに聞こえない。ナマエと呼ばれた彼女との出会いが敵視された状態だったからこそ。
しかし、よく解読できたなぁ……流石、アルベドだ。


「攻撃、すごかった」

「確かに! それになんか機械みたいだったよなぁ……。それについてアルベドは何か知ってないか?」


レザーの発言に続き、パイモンがアルベドへ問いかけた。それは少女と戦闘を行った全員が思っていることだろう。
明らかに人間離れした攻撃がいくつも存在していた。この点についてアルベドは知っているだろうか。


「すまない、ボクも彼女を救助したばかりなんだ。分かっていることは、彼女はまともな人間ではないこと。キミたちもそれは理解している、という認識でいいかな?」

「うん。アルベドも彼女が人間ではないことに気づいていたんだね」

「救助したのだから、状態を見ているに決まっているだろう? だけど、彼女については普通の人間ではないこと以外、何も分かってないんだ」

「そうだったのか……」

「実は数日前に彼女を見つけたばかりで、あの場所で看病していたんだ。ドラゴンスパインには個人的な調査で滞在していたんだけど、少し手が回らない状態でね。放置していたわけではないんだけど、まだ騎士団には報告できてないんだ」

「個人的な調査? オイラ達の依頼とは別のことなのか?」

「うん。だから驚いたよ、様子を見に来たら彼女が起きていて、キミたちを襲っていたんだから」


どうやらアルベドは彼女のあの行動については知らなかった様子。

……あれ?
でもあの時アルベドは彼女に何か言っていなかったっけ?


「でも、何か変なこと言ってなかったか? それに、お前がそれを言った後、ナマエ? って奴の動きが止まってたし……何も知らないってことはないんじゃないのか?」


パイモンが鋭い言葉をアルベドに言う。それは私も感じていたこと。アルベドが彼女について全く知らない訳がない。


「あぁ、あれは彼女を見つけたときに一緒に発見した資料から推測しただけなんだ。これがメモした内容だよ」


アルベドが私達に見せたのは、少女について纏められたメモだった。事細かく書かれており、所々何を書いているか分からない内容がある。あ、決してアルベドの字が下手というわけではなく、その内容が難しいという意味だ。

忙しい合間を見て、少女について調べたのだろう。これでアルベドの発言に対する疑問はない。


……でも、私にはまだ残っている。
あの時のアルベドは、明らかに少女を心配しているように見えた。ただ救助しましたって関係には見えない。


「彼女については近いうちにボクから報告するよ。キミたちはまだ冒険者協会の依頼を続けるのかい?」

「……腹減った」

「オレ達、本当に死にかけたもんなぁ……アルベドが来てくれて良かったぜ」


そう言えば前にベネットと冒険したときに、ちょっとしたハプニングがあって遺跡に閉じ込められたっけ……。

その時はベネットが自分の不幸体質を消すために作った料理(明らかに食べられるものではない)を食べて気絶……その後、救助がやってきた、という事があったのだ。

今回で言えば、ドラゴンスパインの寒さでベネットはダウンしていたはず。それがアルベドの救援に繋がった、とベネットは言いたいのだろう。


けど、今回はベネットの不幸体質を打ち消したからというわけではなさそうな気がする。どうしても先程のアルベドの行動が気になっているんだ。


「じゃあキミたちは一度モンド城に戻るってことでいいかな?」

「そうするよ。レザーが寒がってるしな」

「ではわたくしは冒険者協会へこの事を報告しておきましょう」

「了解。あぁ、彼女については伝えないでくれ。冒険者協会が受け持つ内容ではないからね」


というわけでベネット・レザー・フィッシュルはモンド城へ向かうようだ。……けど、私とパイモンは彼らに着いて行かず、その場に留まった。


「キミたちは行かないのかい?」

「まだ聞きたい事がある」


ベネット達を見送った後、私はアルベドの方を振り返る。視界に入ったアルベドの表情は相変わらず読めない。


「……やはり、キミたちは欺けなかったか」


その発言は先程の話に偽りの部分が含まれている、というもので。


「教えてくれよ。お前とあの子の関係をさ」


私達は彼の秘密を知っている……アルベドは人造人間ホムンクルスであることを。この秘密を共有している存在として、信じてくれないだろうか。


「……分かった。キミたちだから話そう、彼女……ナマエについて」



***



「えっと、あの部屋はアルベドがナマエを隠す為に作ったもので……」

「彼女と出会ったのは今から500年くらい前で……」

「オイラ達が思ったとおり、ナマエは遺跡守衛みたいな存在……えぇっ、遺跡守衛みたいな存在!?」

「合ってるよ」


アルベドから聞いた話はこうだ。
彼女、ナマエとは今から500年ほど前に、以前聞いた師匠の方と冒険していた際に出会ったそうだ。どうやら彼女は当時から姿が変わっていないらしく、本当に人間ではないらしい。


「あまり良い話ではないんだけど、聞く覚悟はあるかい?」

「折角話してくれたんだ。最後まで聞くぞ! な、蛍!」

「うん。聞かせてよ、彼女について」


パイモンと一緒にアルベドの問いかけに頷く。アルベドは私達の意思を確認した後、少し間を空けて口を開いた。


「彼女の名前はナマエ。先程、身体に刻まれていたものから名前を解読したというのは、その場を凌ぐための嘘だ。その名前は彼女本人から聞いたんだ」

「でもオイラ達の時は全く話を聞いてくれなかったぞ。まともに話を聞いてくれなかったし……」

「それについてもきちんと話すよ。……もしかしたら、既に感づいているかもしれないけど、彼女には人格が二つある・・・・・・・


人格が2つある……!?
アルベドの言葉に驚いたが、ある光景を思いだして彼の言葉に納得した。


「もしかして、あの時アルベドの攻撃が当たらなかったのは……その、アルベドが会話した事のある彼女だったってこと?」

「……ボクはそうだと思っている」


眠る少女へと視線を向けたアルベドの表情は、どこか寂しそうに見えた。

……アルベドは今日まで信じていたはずだ。記憶にある思い出の中の彼女の姿で会えることを。
しかし、目覚めた彼女は私達を襲い、そしてアルベドにも敵意を向けた。それは紛れもない事実だった。


「師匠から話は聞いていたんだ。ナマエには機械の様な側面があることを知っていたから覚悟はしていたけど……正直、予想以上のものだった」

「アルベド……」

「大丈夫。マスター権限をボクにしたから、予想通りであればもう襲ってこないはずだ」

「もしかして、あの時言ってた変な言葉のことか?」


パイモンの問いかけにアルベドは頷いた。


「彼女の存在は遺跡守衛と同じと聞いている。彼女にもマスターの存在が必要だ。前のマスターは恐らく……カーンルイア人だ。それも、国への忠誠心が高かったそうだ」

「か、カーンルイアだって!!?」

「師匠によると、ナマエは純粋なカーンルイア人だそうだ。だけど、当時会話した彼女から七神に対する憎悪は感じられなかった。だから、その憎悪は彼女をあのような状態にした張本人……前マスターと思われる人物が持っていたものだろう」


まさか彼女がカーンルイア人だったなんて……でも、言われてみればその特徴はあった。カーンルイア人は皆、瞳の中に星のような形が存在している。彼女にもそれは存在していた。だからアルベドの発言は確かなようだ。


「カーンルイア人ってことは、あいつと同じ状態なのかな……」


パイモンの言うあいつというのは、発言から読み取ると恐らくダイン……ダインスレイヴのことだろう。

カーンルイア人が受けた呪い……純血であれば死ぬ事を許されない『不死の呪い』、混血であれば各地で見かけるヒルチャールやアビスの魔術師などに変化してしまう『荒野の呪い』。
アルベドの話が正しいのであれば、ナマエは前者の不死の呪いに該当する。


「アルベドは、オイラ達が一瞬だけ見れたあの時のナマエに会いたいんだよな?」

「……うん。彼女に話したいことが沢山あるんだ」


彼女は見た事の無いものを見る事、知らない事を知ることが好きだったんだ

ナマエを見て話すアルベドは、当時の事を思い出しているのか、優しそうな表情を浮べていた。それでも、微かに寂しさを感じ取れた。


「オイラ達も手伝うぞ! な、蛍!」

「勿論。出来る事は少ないかもしれないけど、手伝わせてくれないかな?」

「……正直、ボクも記憶の中の彼女と会える根拠が浮かんでいないんだ。だから、キミたちの厚意に甘えていいかい?」

「おう!」


自信なさげな発言をしたアルベドに少し驚きつつも、事情を聞いた以上、見て見ぬフリなんてできない。
それに、彼の言うナマエがどんな人だったのか知りたいという気持ちもある。


……カーンルイア、約500年前に滅んだ国。
そして、この世界において私と……お兄ちゃんと強い繋がりがある国。彼女から何か手掛かりが貰えないか。私自身にはその狙いがあった。

本心はアルベドの手伝いだ。カーンルイアについてはその次に……そう考え込んでいた時だ。


「”動力源が一定値まで回復。起動します”」


聞き覚えのある淡々とした声が聞こえた。振り返れば、上半身を起こしたナマエがそこにいた。


「あ、起きたんだな!」


パイモンが起きたナマエに声を掛ける。パイモンの言葉に反応し、ナマエがこちらを振り返った。


「”3つの反応を確認。1つはマスターアルベド、その他は……”」

「敵じゃないから安心して」

「”……認証完了。マスターアルベドの指示により、2名を敵性対象から除外します”」


アルベドが割り込んでくれなかったら、敵認識されていたかもしれない……彼に感謝だ。


「ナマエ、具合はどうかな?」


アルベドがナマエの目線に合うように片膝を着いて屈む。その様子を私とパイモンは少し後ろで眺めていた。端から見れば何気ない一幕に見える状況を普通に眺めていたのに……。


「私はナマエではありません」


彼女の発言を聞いた瞬間、その様子が崩れた。寒い空間が更に凍り付くような感覚に私は襲われた。

アルベドが間違っているとは思えない。数年に渡り彼女の安否を心配していて、そして見つけた時は死んでいるかのように停止していた……。ハプニングはあったけど、やっとこうして話せる様になったというに、まさかナマエではないという発言。

……まさか、彼女は記憶を失っているのではないだろうか。
停止していたことが影響して、アルベドのことを忘れてしまったのではないだろうか?

そう推測した瞬間、アルベドの背中から私は目を逸らしてしまった。
……そんなの、辛すぎるよ。






2023/05/14


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