12:幸福インフィニット



「改めて、アタシはナマエ。蛍とパイモンについては、あの子を通して見ていたから知ってるよ」

「あの子って、いままでオイラ達が話していたナマエのことか?」

「うん、そうだよ」


例の魔物がナマエによって消滅し、数分経った頃。あの魔物が作りだした空間が消え、ボク達は元の場所……最古の耕運機と呼ばれた遺跡守衛が停止している場所へと戻ってきた。

ボクはまだ彼女に話しかけられずにいた。蛍とパイモンがナマエと話し込んでいるからだ。まあ、どちらかと言えばパイモンがナマエに興味津々で、話に入れずにいるのだけれど。


「何はともあれ、やっと会えたな! アルベド!」


そう言いながらこちらを振り返ったパイモン。彼女の行動につられるよう、蛍もボクの方へと振り返った。


「……」


当然、彼女も、ナマエもボクを見ている訳で。
視線をナマエの方へと向ければ、金色と水色の瞳と目が合った。


「え、えっと……アルベド、だよね?」


戸惑い気味に問いかけてきた声。その声にボクは返答する前に身体が動いていた。


「あ、あれ? 聞こえてない? アルベド?」


昔から何一つ変わらない。目の前まで移動したボクを、左右非対称の澄んだ瞳が見上げる。
ボクは不思議そうな表情をするナマエの頭に手を伸ばし……



「っ、いったあああああああっ!!?」



その頭上にたたき切るように自身の手を振り落とした。勿論、力は入れていないからナマエの反応が大袈裟なだけだ。


「なんでチョップなんだよ!?」

「うぅ……まあ、痛くなかったけど……」

「痛くなかったのかよ! 紛らわしい反応をするなよ!」

「というより、久々の再会がなんでチョップなの……?」


チョップを受けた箇所を両手で押さえながら、いまだにボクを見上げるナマエの問い掛けに答えることなく、ボクは___



「っ!!!?」

「本当に、ナマエだ……」



小さく華奢な君を腕の中に閉じ込めていた。
その存在を確かめるように、力を込めて。

ボクは師匠と同じで、ずっと探していたのかもしれない。彼女の、ナマエの姿を。やっと見つけたと思えば別人で、当の本人はボクと別れた後の出来事で心に深い傷を負い、閉じこもっていた。

もう会えないと思っていた。だから、今目の前の現実に今まで感じた事の無い高揚感を覚えている。
あぁ、この感覚は知っている……嬉しいって感情をボクは抱いているんだ。


「!」

「……っ、うん……うん、そうだよ。心配掛けて、ごめんね……!」


ボクの背中に回った何か。それはナマエの腕だった。少しだけ感じる体温を噛み締めていると、ナマエの身体が震えていることに気づく。

……さっきの声、震えていた。
だから、今ボクの腕の中にいるナマエは泣いている。鼻を啜っているのが証拠だ。


明るい様子しか見たことが無かったから知らなかった。こんなにも弱っている一面があることを。

いや、所々そのような節は見た事があった。過去に過ごした日々は勿論、先程の戦いでも新たに知る事ができた。むしろ、後者の方が多くの収穫があった。

先程の戦いでも叫んでいたことから考えると、ナマエは寂しがり屋だ。いや、そうだろう?
何故なら、ナマエと過ごしていた時期に彼女自身が零していたじゃないか。ボクに対して『独りじゃなくて良かった』と。


「……これでやっと」


やっと、全てが終わったんだ。
そう思いながら、いまだ腕の中にいるナマエを更に強く抱きしめた。



***



「ぐすっ、本当に良かったなぁ、アルベドっ」

「そろそろ泣き止んで欲しいんだけど」


場所はドラゴンスパインに設けたボクの拠点。
行きより時間を掛けてここまで戻ってきたボク達。……何故時間が掛かったのかというと。



『あのおしゃれな建物は何!? それに、良い匂いがする!!』

『雪狐にそっくりな子がいる! あっ、待って〜〜〜っ!』

『お城!? え、本当にお城なの!? 中に入りたい!! ……まだダメ? うぅ、分かった……』

『”あの子”を通して見てた景色だ! 広い海、綺麗な夕日! 実際に見るのだと違うね!』

『あ、敵がいる! ちょっと待ってて…………ふぅ、もう大丈夫だよ!』


原因は全てナマエである。

好奇心に負けていろんなものに興味を示したり、もう一人のナマエと同じように敵を感知して飛び出し、すんなりと勝利して帰ってきたり……とにかく楽しそうだったので、止めようにも、止められなかった。

ずっと閉じこもっていたんだ、やっと表に出てきた彼女の行動に制限を掛けたくなかった。その結果が、予定より時間が掛かったことに繋がっているのである。


因みに、上記の会話について上から順に詳細を話すと……アカツキワイナリーと、そこで育てられている葡萄を見たナマエ、偶然見つけた赤狐を追いかけ回すナマエ、モンド城を見て興奮したが、中に入ることができないと知り落ち込むナマエ、海と夕日を見て目を輝かせていたナマエ、敵性反応を使ったのか、魔物を倒しに先陣を切り、余裕な表情で帰ってきたナマエである。


「それじゃあ、道中でも話した通り教えてくれるかい?」

「うん。えっと、このドラゴンスパインに来る前のことだよね」


拠点に戻るまでにボクはナマエに話すようにと言っていた。その内容は、何故ボクに何も言わずに消えたのか、その間何をしていたのか……どうして、ドラゴンスパインで雪に埋もれ停止していたのか。ボクの問いに答えてくれることを約束してくれたのだ。

ようやく、その答えが聞ける。


「まず、アルベドに何も言わずに去ったことについては……まだ、あの時のアタシは先生に逆らうことができなくて、受けた命令に従うために、あの場所を離れた。決して、アルベドのことが嫌いになったからじゃないよ」

「そうだよな、ナマエにとってあの魔物は怖い存在だったんだよな」

「うん、すごく怖かった」


ナマエはあの魔物の指示によって、ボクに何も告げずに去った。それが真相だったのか。確かナマエはあの魔物から受けたコマンド、言い換えれば命令とも言えるそれに逆らうことができない……あれ?


「ちょっと良いかな。命令には逆らえないのは、もう一人の君だけじゃないのかい?」


コマンドの縛りがあるのはもう一人のナマエだけ、本来のナマエには適用されない。それは数日前のあの戦いで本人達が話していたではないか。


「うん。アルベドの言う通り、アタシにはコマンドは適用されない。”あの子”には適用される。それは前から分かっていたけど……痛いこと・・・・をされたくなかったから、言う事を聞いてた」

「つまり、前に聞いていたもう一人の君と入れ替わるコマンドは、ナマエの意思で動かしていたってことか」

「そう言われば、確かに矛盾してたな! ナマエがやってたって事なら筋は通るけど、理由が……うぅ」


パイモンの言う通り、ボクも入れ替わるコマンドについて矛盾しているのではないかと思っていたが、ナマエが切り替えていたとなれば話は別。
表面上は矛盾しているが、実際はそのように見せていただけだったのだ。

それについては解決したということで、次に浮かんだ疑問について聞いてみよう。


「差し支えなければ聞いてもいいかな。その”痛いこと”って一体何の事なのかを」


そう言っていたナマエの表情が辛そうに見えてね、聞いて置いた方が良いと思ったんだ。今後、そのような事があった際に守ってあげられる。
それに、恐らく痛いことは1つではない。その単語でひとまとめしているだけだと思うんだよね。


「えっ!? えっと、それは、その……」

「アルベド、顔が怖いよ、そんな顔じゃナマエも話したくても話せない」


中々言葉にしてくれないナマエを見ていると、蛍が声を掛けてきた。どうやら今のボクの顔は他者から見たら怖いらしい。まだまだ感情のコントロールができていないようだ。難しいものだね。


「沢山あるから、全部を言い切ったら日が沈んじゃうかも……」

「そんなに酷い目に遭ってたのか!? あんなやつ、消えて正解だぞ!」

「そう言ってくれてありがとう、パイモン。でも、そんなでもアタシにとっては先生なんだ」

「そう言えば聞きたかったんだけど、どうしてあのアビスの使徒を先生って呼んでたの?」


蛍の問い掛けは、この場にいてかつ、先日の戦闘を見た者だけが思う疑問だ。まだボク達はナマエとあの魔物の関係を知らない。ボクは推測はしているけど、絶対にそうだと断言はできない。まだ確証がないからだ。


「実はアタシ、こんなになる前は身体が弱くてね。走り回ることができないくらいだったんだ」

「意外だな……けど、あのどこにでも目がいっちゃう所に納得がいくぜ」

「あはは……お恥ずかしい。んで、その頃にアタシを診てくれてた医者が、あの魔物だったの。あ、元は人間だよ!?」


ボクの推測通りだった。
機械の身になる前は身体が弱かった。そんな彼女の主治医が、あの魔物だった。

多少ではあるが、魔物……ヒルチャールやアビスの魔術師と呼ばれる魔物は、アビスの怪物と呼ばれ、500年前にカーンルイアで起こった災いによる呪いで変質してしまった元人間である事を知っている。

ナマエもカーンルイア人だ。彼女の瞳にある星のマークがその証拠だ。事前に本人に聞いていたから知っているけど、そのマークがはっきりと見える事からナマエが純血のカーンルイア人であることが分かる。


「大丈夫だぞ。オイラ達、カーンルイアについては機会があって少し詳しいんだ。お前ほどじゃないけど……」

「確かにアタシはカーンルイア人だけど、詳しいかどうかと言われたら微妙かも。アタシ、ただの一般市民だったし」

「そうなのか!? カーンルイアって宮廷があったんだろ? てっきりその関係者かと思ってたぜ」

「うーん、そう言われたら間接的には関係者になるかもね。先生が宮廷所属だったから」


なるほど。宮廷所属だったということは、それなりに権力があったということ。ナマエを好き勝手できた理由として『権力』が入っていそうだ。


「そんなわけで、アルベドの質問その1の去った後についてはこんな感じ。2つ目の何をしていたのかは、さっきの話で想像付いたかもしれないけど、先生の指示で意味の無い殺戮を強いられてた。まあ、アタシは戦えなかったから、戦っていたのは”あの子”なんだけどね」

「”あの子”ってもう一人のお前の事だよな。名前とか付けないのか?」

「なんで?」

「だって、仲直りしたんだろ? あ、元々喧嘩とかしてないんだっけ?」

「喧嘩と言うより、アタシが一方的に怖がってただけ。だけど、あの時話して……”あの子”は変わってた。それも、良い意味で。アタシは偉そうに言える立場じゃないけど、今の”あの子”なら大丈夫だと思った。だから”あの子”の案を受け入れたんだ」

「だったら、仲直りで良いんじゃないか?」

「パイモンがそう言うなら、うん。そういうことにしておく!」


じゃあ名前とか付けた方が良いよね……うーん……。
そう考え込むナマエを見ていれば、彼女の恐怖対象は最低でも近くにはいないだろう。そう結論づけて良いと思ってる。


「”その件については後日で大丈夫です。まずは、マスターアルベドの質問に答える事が先かと”」

「そう? じゃあ、この話が終わった後に考えるね!」

「”……ありがとうございます、オリジナル”」

「へへっ、すっかり仲良しになったな!」


ナマエともう一人のナマエのやりとりを見て、パイモンが微笑ましそうに二人を見つめていた。もう一人のナマエは、すっかりナマエのアシスタントのポジションに落ち着いたようだ。ヘッドホンから聞こえるその声も、無機質ながらどこか嬉しそうに聞こえる。


「じゃあ、残るのは最後の質問。どうしてドラゴンスパインにいたか、だね」

「ああ。前にもう一人の君に聞いたんだけど、記憶媒体の損傷で曖昧な部分しか覚えてなかったらしい。ナマエ、君はそのことについてどこまで覚えているかい?」


この質問は、ボクが最も聞きたい事でもある。
偶線にもドラゴンスパインで見つけたけど、必ず理由があるはず。そして、どうして停止していたのかも知りたい。

ボクの視線の先にいるナマエは、少しだけ視線を俯かせていた。どうやら考え込んでいるようだ。


「……まずは、ドラゴンスパインに来るまでの話をするよ」


……暫くして、ナマエが口を開いた。
長い話になる。ボクは確信に近いものを感じた。


「さっきも言ったけど、アルベドの元を離れた後は、先生の命令に従って殺戮を行う日々だった。だけど、ずっと戦わされているわけでもなくてね、待機する期間も僅かに存在してたんだ」

「もしかして、アルベドと知り合った時もそれだったのか?」

「正解、パイモン」


ボクとナマエが出会った時も、過ごしていた日々も、あれは待機中だったのか。突然いなくなったのも、行動命令を受けたからか。


「その時にね、ある人とあったんだ」

「ある人?」

「うん。金髪に金色の瞳を持った、キラキラした男の子・・・だよ」


人と出会った、か。その人物が関係しているのだろう。
ナマエの話を元に考察をしていたときだ。


「金髪で、金色の瞳……?」

「? うん、そうだよ」


どうしたの、蛍?
ナマエの声にボクも蛍の方へと視線を移す。ボクの視界に映った蛍は、目を見開いてナマエを見つめ、そして___


「その人の、名前は!?」

「ちょ、ちょっと蛍どうしたの!?」

「お願い、教えて……私の知ってる人かも知れないの……っ!」


ナマエの両肩を掴み、懇願する様子を見せた。金髪に金色の瞳……今思えば彼女にもその容姿は当てはまる。
そして、蛍はとある人物を探すために旅をしている。




「わ、分かった。その子はね、『空』って言うの」



困惑した様子でナマエが、その人物の名を告げた。その瞬間、蛍は息を呑むような声を出した。その反応から見るに、空という人物は___


「!! そ、ら……っ、本当に、空って言ったの……?」

「そうだよ。あれ、今思えば蛍に似てるかも……」

「ナマエの言う空が私と同一人物であるなら……空は、私のお兄ちゃんなの」

「お、お兄ちゃん!?」


双子の片割れ、蛍の兄なのだろう。
まさか、ナマエと蛍の兄が知り合いだったとは。驚きだ。


「ごめんね、気が利かなくて……」

「仕方ないよ。初対面なのに空と結びつく方が不思議だから」

「そっか。……蛍は、空の妹さんだったんだね」

「その、ナマエはお兄ちゃんについて何か知らない? 目的とか、その……」


蛍は恐る恐ると言った様子でナマエに問いかけた。様々な国に踏み入れて探している存在なんだ、知りたくて当然だろう。以前までのボクが、ナマエの事を知りたいと思っていた事と同じだ。


「……ごめんね。アタシ、そのことは知らないの」

「!」

「でも、蛍がそう言うなら、やっぱり空は何か目的があったんだね」

「やっぱりってことは、ナマエから見てもお兄ちゃんは何か企んでるように見えたんだね」

「うん。それとなく聞いてみたんだけど、『友達を巻き込みたくない』って言われちゃって。結局教えてくれなかったよ……最後・・まで」


……最後まで?
どこか意味がありそうなその単語に、ボクは反応した。そして、無意識に口に出ていたらしく、ナマエがこちらに視線を移した。


「最後って言うのは、空と別れるまでって意味。ドラゴンスパインに来る前、アタシは空に会ってた。……そして」

「そして?」

「___暴走したアタシを止めてくれたんだ」


暴走したナマエ……もしかして、もう一人のナマエが話していた内容のことか?
であれば、暴走したナマエを止めたのは……。


「前に言ってた、ナマエの暴走を止めたのは、お兄ちゃんだったんだ」

「暴走してしまったら、アタシにはどうすることもできない。大切な友達をも傷つけてしまう。それが嫌だった。自分ではどうしようもないから、誰かに頼みたかった。そのお願いを聞いてくれたのが、空だったんだ」


実はね、アルベドにもお願いしようか迷ってたんだ。

そう言って眉を下げ笑うナマエを見て、あの時の約束を思い出した。いつか話すから待っていて欲しい、と言われていた時の事を。

もしかしたら、あの時の約束が果たせていたら。
ナマエはボクに暴走のことを止めて欲しいとお願いしたのだろうか。


「けど、あの時のお願いをアタシは後悔してる」

「どうしてだ?」

「アタシは壊れたかった。一日でも早く、この辛い日々から逃げたかった。だから、空に壊して貰えたと思った時、嬉しかったんだ。……けど、目を閉じる前に視界に入った、空の顔を見たら……そんなこと思えなくて」


……空、泣いてたの
泣きながら、アタシを刺してた

その言葉から、蛍の兄はナマエのことを友人として見ていた事がよく分かる。どうでも良いのなら、泣くことはないだろうから。


「空の顔を見たとき、約束したときのことを思い出したんだ。仕方ないなって感じでアタシのお願いに頷いてくれてたことを。だから、本当は空にとっては嫌な事だったんだろうって、そう思ったんだ」

「ナマエ……」

「それに、結局アタシ壊れてないし。……やっぱり優しいよ、空」



ナマエが蛍の名前を呼ぶ。ナマエの視線は蛍に向いていた。


「確かに空は何か目的があって動いているんだと思う。だけど、空を完全な悪としてみないであげて? きっと……ううん、必ず理由があって、今は蛍と離ればなれになっているだけだから」


なんて、そんなの蛍の方が分かってるよね
告げた後、苦笑したナマエに飛びつく影。それは蛍だった。


「ありがとう、ありがとうナマエ……っ」


涙声の蛍の背中にナマエはそっと自分の腕を回し、落ち着かせるように優しく叩いた。その様子を見れば、普段の幼げな様子が嘘のように見えるほど、母親のように優しく包み込む彼女がそこにいた。



***



「そんなわけで、アタシは空に刺されたわけだけど、完全に壊れたわけじゃなかったから、僅かに動けた。自我が残っている間に、暴走しても誰も巻き込まれない場所を探して彷徨ってた」

「じゃあ、力尽きた場所が……」

「偶然ここ、ドラゴンスパインだっただけだよ。そもそも此処がドラゴンスパインって呼ばれている雪山だってことも知らなかったし」


これでアルベドの質問に応えられたかな?
パイモンから目線を外し、ボクに向けられた左右非対称の瞳。この話はボクの質問によって始まったものだ。確認を向けられて当然だ。


「うん、所々深掘りしたいところはあるけれど、とりあえずは大丈夫だよ。その点については、また別の日にでも。色々あってナマエも、蛍もパイモンも疲れているだろう?」

「そう言われれば、どっと疲れが来たぜ……」

「私も」

「それじゃ、この件は解決って事で良いか?」

「勿論。大きな借りができてしまったね」

「ひひっ、それは美味しいご飯で勘弁してやるぜ!」

「ご飯で良いんだ……」

「パイモンは食いしん坊なんだ。ナマエ、覚えておいた方が良いよ」

「わ、わかった!」


先程まで重い話をしていた事が嘘のように、和やかな空気になっている。ボクの思っていた通り、ナマエは蛍とパイモンにすっかり心を許したようで安心した。



「それじゃ、オイラ達はここで! ___またな、アルベド、ナマエ!」

「うんっ! 今度は遊ぼうね、二人とも!」


拠点から遠ざかっていく蛍とパイモンが見えなくなるまで、ナマエはボクの隣でずっと大きく手を振っていた。

やがてその姿が見えなくなると、この空間にいるのはボクとナマエだけになるわけで。自然と目線が互いに向く。



「それにしても、アルベドが人間っぽくなっててビックリした!」

「……その言葉だと、やっぱりボクが人間じゃないことは知ってたんだね」

「うん。ホムンクルスって言う奴でしょ。へへっ、アタシはアルベドより長生きだからね、割と知ってる方だと思うよ」


いや、止まってた時の時間があるからあんまり変わらない……いや、アタシの方が知らない事多いかも……!?
なんて言いながら自問自答する彼女の名前を、ボクは呼んだ。


「うん? なあに、アルベド」

「知らない事があるなら、またボクが教えるよ。昔もそうだっただろう?」


無意識に差し出した手。
その手を左右非対称の瞳が暫く捉え、そしてボクと目が合った。


「キミに会えなかった空白の時間で、ボクも沢山の事を知った。ボクが知った未知を、キミと共有したいんだ。どうかな」



その問い掛けに対し、返ってきたのは___



「っ、勿論! アルベドが教えてくれるものは全部面白くて、楽しくて……ワクワクするの! 今回も楽しみにしてるからね?」



昔と変わらない温もり、感触。
それが差し出したボクの手に重なった。

ボクとナマエの時間は、再び動き出したようだ。






2023/08/31

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