白銀の世界にて



「わああ……! 見てくださいっ、雪ですよ!!」

「見れば分かるぞ……」

「美味しそうですね!!」

「そうだな……って、何言ってるんだ!?」


現在、ドラゴンスパイン入り口付近。
ドラゴンスパインへ近付くと、段々と寒くなっていく。それを感じ取っていたのかどうか分からないけど、名前ちょっとワクワクしてたんだよね……。

そのワクワクが最高潮に達したのか、雪景色が見えた瞬間に名前はいつもの大人びた雰囲気はどこへやら、子供らしい姿を見せている。

笑顔でこちらに振り返り、ドラゴンスパインの景色を指さす名前。2000年以上も生きている名前だけど、少女の姿だからはしゃいでいると同年代にしか見えない。


「……はっ!! すみません……久しぶりにゆっくりと雪景色を見れたもので、つい昂ってしまいました」

「食うか」

「いる!」


名前の言葉を聞いてなのか、それとも言うであろうと予想していて事前に作っていたのか……定かではないが分かるのは、が丸めた雪を名前のために作ったという事だけだ。

目を輝かせながら、に差し出された雪を食べている名前を見て思うに、多分後者かな。付き合いは長いんだし、お互いの事を知っていて当然だろう。俺も蛍のことは誰よりも分かっていた……はずなんだけどな。

どうして蛍は、俺とは別の道を選択した?
俺はただ、また一緒に蛍といたいだけなのに___


「……らさ……、……さん。___空さん!!」

「!!」


大きな声に乗せられた自身の名。気がつけば俺の視界には美しい青緑の瞳が。次に視界に映り込んだのは白い頭……パイモンだった。


「どうしたんだよ、急にボーッとして……」

「ごめん、大したことじゃないんだ」


そう、大したことではない。
いずれ俺たちは再会できる。それだけは確かなんだ。だから、不安に思うことはあっても、また会えることは決まっているから。それだけを信じていれば大丈…


「無理をしていますね」

「え?」

「今、どんな顔をしているのか気づいていますか」


今にも泣き出してしまいそうな顔をしています
そう言って、名前は俺の頭に手を伸ばし……優しい手つきで撫でてくれた。その優しさに本当に涙が出そうになるけど、頑張って堪えた。


「……ごめん、ありがとう。二人のやり取りを見ていたら妹の事を思い出したんだ」

「空……」

「そうだったんですね」

「二人は何も悪くないよ。だから気にしないで」


俺の言葉に名前とは顔を見合わせる。そして、こちらへを再び視線を戻した。


「我が言える立場ではないが……溜め込めばいずれ爆発する。それが予想外の形で表に出てきてしまえば、危機となりえる場合もある」

「私達の場合、業障がそれに当たります。感情によって業障に呑まれた同胞を何人も見ました……時として感情は危険を及ぼします。話せるときに話してください、空さんは私達にとって大切な存在なのですから」

「オイラも、オイラもいるぞ!! なんたって、お前にとって最高の相棒なんだからな!」


おかしいな、ドラゴンスパインって本当に寒い場所なのに、今とっても温かいや。この温もりに浸っていたい……そう思ってしまった。
けど、俺たちは観光でドラゴンスパインに来たわけじゃない。それを思い出して話を無理矢理区切った。ちゃんとお礼も伝えてから、だよ。


「名前、握った雪ならまだあるぞ」

「もぐもぐ……もっと食べる!」


さっき、明らかに子供を見るような優しい目つきで俺を見つめていた名前だが、が握った雪を嬉しそうに食べている……。今度は向こうが子供っぽくなっていることに、本人は気づいているのだろうか。言えるのは、明らかにがそうさせているということだけども。

……ちょっとドキッとしたのは隠しておこう。後が怖い。
それに、やっぱり2人からすれば俺は子供同然なのだろう。年齢差激しいし……まあ、仕方ないと言えば仕方ないのかも?


「……って、雪を食べに来たのではなく、アルベドさんの依頼で来たのでした……」

「雪だからと気が緩みすぎた」

「うぅ……、その通りです……」


、名前が雪にテンションが上がっている理由の1つになっていることに気づいてるのかな……。


「でも、お前にとってゆっくりして雪景色を見れなかったんだろ? アルベドの拠点まで景色を堪能しようぜ」

「お気遣い感謝します。適度に景色を堪能しようと思います。雪は依頼が済んだ後に満足するまで食べるようにします」


パイモンの言葉に名前はそう返すと、が作った最後の雪玉を食べた。そして、先程までゆるゆるだった表情に真面目さが戻った。

とは言っても、名前は基本的にニコニコしているので、ゆるゆるだと思ったのは明らかにテンションが高い、というので判断した。


「所々に魔物と、ファデュイがいますね」

「魔物はまだ分かるんだけど、なんでファデュイがいるのか分かんないんだよなぁ。あいつら寒くないのかな」

「スネージナヤの人間なのでしょう? 寒さに慣れているのでは?」

「ファデュイって全員がスネージナヤ人なのかな……?」


適当な雑談をすること数分。アルベドの拠点は少し高い場所に設けられた空洞にあるため、雪山を登ることになる。

途中にいた魔物を倒しながら進んでいくと、遠くにあるものが見えてきた。


「あれは……」


名前の声が聞こえ、後ろを振り返る。俺の視界に入ったのは、遠くを見つめる名前と、彼女の傍にいるだ。
どうやら遠くに見えるあるものに興味を引かれたようだ。

えーっと、どう説明しようかな……。
名前に伝わる説明を考えていた時だ。



「あれはこの地に眠ってる龍の遺骨だよ」



第三者の声。けど、その声には聞き覚えがあった。
声が聞こえた方へ振り返ると、頭の中で浮んでいた人物がそこにいた。


「アルベド!」

「先日ぶりだね、空、パイモン」


彼こそ、今回俺たちの依頼者であるアルベドだ。澄んだ青い瞳が俺の背後にいる名前とに向く。


「それで、君たちの後ろにいる人達は?」

「お前に言っておいた、助っ人だぞ!」

「初めまして、アルベドさん。空さんとパイモンさんから、貴方について少しお聞きしています。私のことは名前と呼んでください」


俺たちの横に並び、アルベドへ自己紹介をする名前。


「名前だね。ボクはアルベドだ。それで、そこの彼は?」

「彼は…」

だ」

か。よろしく」


……に対し、の自己紹介はあっさりしている。まあ、名前が心配で着いてきたようなものだしね……。


「この二人が、君たちが言っていた助っ人かい?」

「正確には名前だけだな。ほら、お前言ってたろ? ドラゴンスパインの異常事態を解決したいって」

「うん、話したね」

「それをできるかもしれないのが、名前なんだ!」


パイモンの言葉にアルベドはまじまじと名前を観察し始める。名前はアルベドの視線を黙って受けているが、それを気に入らない者が。


「……すまない、何か気に触ったかな」

「……」


それは、アルベドの視線を遮るように名前の前に出ただ。は無言でアルベドを睨んでいる。


「しょ、。別に見ているだけじゃない、何もないわ」

「……ふん」


うーん、これはアルベドが異性だから警戒しているとか、かな。だって、明らかに名前絡みの異性に対しては警戒心高いんだもん。


「ごめんなさい、はいつもこんな感じなんです」


名前、言葉が足りないよ!
誰に対してもこんな感じじゃないでしょ!! この態度は名前限定だって言わないと!!


「……なるほど。すまなかったね、決して彼女を変な目で見ていたわけじゃ無いんだ。ただ、彼女の後ろに見える羽根が気になってね」


そう思っていると、アルベドが名前を観察していた理由を話した。あぁ、確かに……。普通の人間にはないものが生えている。それは尻尾だ。ふわふわしていそうな羽毛は、彼女が本来の姿が鳥である証拠だ。

そもそも彼女は人間ではない、仙人だ。


「彼女はキャッツテールのバーテンダーみたいな種族なのかい?」

「いや、ディオナとは違うぞ。そもそも名前は人間じゃないんだ」

「人ではない?」

「おう、名前は……あ、勝手に話そうとしちゃったぜ」

「構いません。ただ、彼が信じるかどうか……」


名前は記憶喪失の際、過去に人外であることを非難された過去を持つ。璃月では仙人の存在は尊敬され、憧憬とされたりと……好印象に捉えられる。

いくら当時記憶を失っていたとはいえ、記憶を取り戻してもその言葉は覚えているようで。他人であり、他国の人間であると、名前は自分が人ならざる者であることを公表するのは抵抗があるようだ。

名前の様子を見て、自分から告げるのは難しそうだ。俺から話そう。


「じゃあ俺が話すよ。名前は璃月に住んでいる仙人なんだ」

「仙人か。璃月にはそのような存在がいる事は知っていたけど、その本人だとはね」


まだ仙人としか話していないが、アルベドは名前が気にしていた人外に対する抵抗を口にはしなかった。


「……何も思わないのですか?」

「それは人ならざる者という意味かな? それに対してならボクは特に感じていない。ボクが興味を引いたのは、仙人ということ。聞いた話だと、璃月では仙人は伝説の存在として語られているそうだから、とても興味がある。けど、君の傍にいる彼の機嫌が更に悪くなりそうだから、止めておくよ」


……むしろ、興味津々のようだ。あの日、俺とアルベドが初めて会った時のように、いろいろ実験させられるのでは……。

と、少し心配していたけど、アルベドはの機嫌の悪さに何か察しているようで、何もしないと告げた。


「貴方は私が人ならざる者と知っても、軽蔑しないのですね」

「人それぞれだと思うよ。少なくともボクは、人ならざる者かどうかで人を評価しない」

「お前の評価基準は、興味を引かれるかどうかだろ」

「その通りだよ、パイモン」


アルベドの基準は社交的ではない。……だけど。


「非人道的でなければ大丈夫ですよ、アルベドさん」

「名前!?」


名前にとっては、璃月以外の人に自分の存在を受け入れて貰えた。その事実が嬉しかったのか、アルベドの話に常識の範疇でなら良いと了承したのかな。


「本当に良いのかい? 隣の彼は納得していないみたいだけど」

「……名前は実験に対し、深い傷を負っている。我としては断りたいところだが、名前が許しているから黙っておく。ただし、お前が口にした約束が偽りでないか、我の目が届く所で行って貰う」

「分かったよ、。さて、彼の了承も得たことだし、依頼の件が終わった後にじっくり話を聞くとするよ」


着いてきてくれ、いくら異常事態としてもドラゴンスパインの寒さは人体によくない

そう言ってアルベドはこちらに背を向け、歩き出した。彼が歩く先には、アルベドの拠点がある。もしかしたら拠点からこちらまで来てくれたのだろう。


「あぁ、そうだった。だいぶ話がそれたけど、あの遺骨が今回の依頼に関係しているんだ。それについては拠点に着いてから話すよ」


あの遺骨は、ドラゴンスパインで眠りについたドラゴン、ドゥリンのものだ。名前とにはそのドラゴンが関係していることを話していない。

この説明は俺たちよりも、この地について調べてきたアルベドに話して貰うのが良いだろうと思って、と名前にはドラゴンスパインの異常事態について解決できる人を探している者がいることと、その異常事態を端的に伝えている。


「龍の遺骨……」

「どうした、行くぞ」

「あ、うん」


俺とパイモンがアルベドの後を着いて行っていたとき、名前が再度ドゥリンの遺骨を眺めていたことに気づかなかった。






2024/02/15

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