璃月に伝わりし瑞獣、鳳凰


※当然のように捏造含む
※以下の内容を含む
 L一話完結もの『隠し事は禁止!』



「え、また名前が洞天に引きこもってる?」

「そして、前回と同じくを拒絶してる、と」



場所は奥蔵山。
少し前に出会ったフォンテーヌからやって来た音楽家、ドヴォルザークに協力するため、俺達は行動していた。

ドヴォルザークが璃月にやってきた理由としては、遙か昔に彼の先祖を助け、その人物が奏でた音楽を聞くためだそう。そのため遥々フォンテーヌからやってきたそうだ。

璃月には仙人がいる。一応女性で絞り込むことはできるけれど、どうやらドヴォルザークの祖先を助けた仙女は、溺れた彼の祖先を助けたそうだ。


というわけで甘雨に調べて貰って貰った内容を元に、まずは溺れたところから再現することにした。
留雲真君への用事を終え、再現を実施するために奥蔵山の池で溺れたフリをしたのだが……心配そうな顔をしたと申鶴に助けられ、止めてくれと言われてしまった……。フリとは言え、確かに冗談ではすまないだろう。特にこの二人には……。

というわけで、最近の事を何となく話す流れになった時にの口から出てきたのが、彼の妻である名前の話だ。

前回は魔物による状態異常ものの攻撃を受けたことで閉じこもっていたけど、今回は一体何なんだろう?


「彼に頼まれて、我も名前の元を尋ねたのだが……どうやら取り込み中のようでな。中に入れて貰えなかった」

「そうだったのかぁ……って、名前と申鶴って知り合いだったのか!?」

「共に修行する仲だ」


申鶴が着々と人脈(名前は仙人だから人脈というと少し違う気もするが)を広げているようで良かった。表情は無表情だけど、どこか嬉しそうな様子の彼女を見るに、きっと良い関係を気づけているのだろう。

名前と言えば、少し前に会ったきりだ。雲菫の手伝いを引き受けた流れで、凰の舞を見せて貰った日……。


「我はもうあやつを一月も見ておらぬ……」

「一ヶ月でこれって……重症だな」


こちらも無表情だが、申鶴と違って落ち込んでいる。効果音を着けるならば、ズウゥゥン……って感じだろうか。
まあ申鶴との会話内容は明るい(?)ものだったし、違って当然何だけど。


「でも、俺達も名前を見たのはそれくらいじゃないかな」

「何か知らないか、空」


いつも通りに見えるけど、心の内は名前が心配で心配でたまらないはず。
うーん、俺が最後に見た名前は……。


「あ、もしかして」

「! 何か分かったのか」

は知ってるよね、凰の舞を」

「ああ。その名を聞くのは久方ぶりだな」


それがどうかしたか
腕を組みながらが俺に問いかける。


「オイラ達が名前と最後に話したのは、凰の舞についてだったんだ」

「俺の友達が凰の舞について調べてたんだけど、納得できるものが中々見つからなかったみたいで。そこで鍾離先生に相談したんだ」

「なるほど、それで名前の元を尋ね、凰の舞について話した、と言うわけか」


口元に手を当て、考える様子の。彼も鍾離先生と同じくらい凰の舞について詳しいのだろう。


「あ、そう言えば名前のやつ、今年の海灯祭で凰の舞を舞うってオイラ達に宣言していたよな!」

「なんだと?」

「そうそう。確か、亡くなった人の為に舞いたいんだって」


そのことを伝えると、は「……そうか」とどこか柔らかい声音で呟いた。その様子から見るに、凰の舞がどのような意味を持つのか知っているのだろう。


「であれば、我は当日まで待つしかないようだな」

「? なんでだ?」

「最高の出来で本番に挑みたいと、名前がそう思っているからだ。何度あやつの舞を見たと思っている、我は名前が凰の舞に掛ける気持ちを理解している」

「つ、つまり……本番までそっとしておけってことか?」

「ああ。故に様子を見に行かなくて良い。行ったとしても、追い返されるだけだからな」


若干話が伝わってこなかった部分があるけれど、きっとこういうことだ。
名前は本番までに凰の舞を最高のものに仕上げ、海灯祭で披露する。そして、亡き魔神へ舞を通して想いを伝える。

そのために名前は、こちら側との接触を完全にシャットアウトしているんだ。初めは心配で仕方ない様子だったも、俺達から得た名前の情報を元に心配する必要がないと判断したのだろう。……多分。


「けど、ステージに立つには申請する必要があるよな? 名前ってしっかりしてるけど、外で暮らしてた方が長いから、そこら辺知ってるのかなぁ」

「その点についてはご心配なく。名前なら既に申請済みですよ」

「甘雨!」


突如会話に割って入ってきたのは、甘雨だ。
と話し込んでいる間、どうやら申鶴と甘雨で話し込んでいたらしい。

それで、俺達の会話から名前について聞いて話しかけてくれたんだろう。


「それなら良かったな! けど、すんなり通ったんだな? あ、もしかしてコネってやつか?」

「コネではありません、きちんとした申請ですよ。ですが、割と話題になっていましたね」

「なんでだ?」

「どうやら名前は、仙人であることを隠す為に雲翰社所属で、座長の弟子という設定で通しているみたいです」

「なんだって!?」


やっぱり名前も仙人であることを隠すんだね……。けど、あの見た目はどう見ても人間とは見て貰えないはず……。あ、甘雨の例があるから誤魔化せるのかな。

名前の普段……人の形を取った姿についてだが、正面だけ見れば普通の人そのものだ。しかし、後ろを見れば人にはない尻尾……それも鳥の尻尾がある。それを見れば一発で人ではないことがバレる。

は浮世離れしてはいるが、見ようと思えば人と誤魔化せるけど……。
どうしてそこら辺が違うのか、名前に聞いたところ『仮の姿になったところ、このようになりました』と話していたので、自由自在にできるものというより、人の姿ではあのような形になる、と言った方が正しいのだろう。


というより、そもそもな話、雲菫は名前が仙人であることを知っているのだろうか……?


「一体どうやってその設定になったんだ?」

「申請の時に座長の方がいらっしゃったので、口合わせしたんだと思います。もしかしたら自分が仙人であることを伝えているかもしれませんね」

「甘雨はそれについて聞いてないのか?」

「特には」


そこについては本人達に聞くとしよう……。
多分、今はその話について掘り下げる必要はないだろうし。


「とりあえずステージの件は問題なさそうだな! 大人しく当日を待ってみようぜ!」

「話は終わったな。なら、我はこれで失礼する」


というわけで、名前についての話は区切りが付いた。用件が済んだからか、は話が終わった瞬間姿を消してしまった。相変わらず速い……。


「ふふっ、きっと彼も当日が楽しみなんですよ」

「なんでそう思うんだ?」

「先程彼も言っていたでしょう? 何度も凰の舞を見た、と。凰の舞の意味をもう一度思い返してみて下さい」


甘雨に言われ、凰の舞について思い出してみる。


「えっと、確か……大切な人に感謝と愛を伝える、だっけか?」

「はい。そこで、凰の舞について話していた降魔大聖の発言を思い出して下さい」


凰の舞について振り返った後は、の発言かぁ。えっと、『何度あやつの舞を見たと思っている、名前が凰の舞に掛ける気持ちは理解している』だっけ。

……あれ、凰の舞って感謝と愛を伝えるんだよね?
ということは……


「お、オイラ分かっちゃったかも……」

「言ってみて下さい」

「もしかして凰の舞って、歌で言い換えたらラブソングってやつか?」


パイモンと考えていた事が一緒だった!
そう思っていた時、甘雨から「はい!」と嬉しそうな声音の返答がきた。


「名前はこの舞を毎年必ず1回、降魔大聖へ愛を伝えるために披露していました。あの様子だと、今年はまだだったようですね」


まあ、当然なのでしょうが。
そう口にした甘雨は悲しげな表情を浮べた。

名前は200年間、個人の意思では無かったとは言え、璃月を離れていた。その上、自分の事も、友人のことも……愛する人の事も忘れていた。

もしかしたら、空白の時間も相まってこれまで以上の良い状態で披露したいのかもしれない。俺は名前本人じゃないから、本当にそう思ってなのかは分からないけど。


「そう言えば、凰の舞と言えば忘れてはならないものがあるのですが、ご存知ですか?」

「忘れてはならないもの?」

「凰の舞は鳳凰の凰に舞うと書きます。……何かが欠けているとは思いませんか?」


欠けている?
何が掛けて……あれ、さっき甘雨は鳳凰って言ったっけ……?


「鳳凰って瑞獣が雄と雌の番の鳥なんだよな? ……もしかして、鳳の舞ってやつがあるのか?」

「その通りです!」

「今適当に言ったんだけど、合ってるのか!?」

「合ってますよ。鳳の舞というものが存在します」


なんだろう、変な予感がする。
前回凰の舞を舞える人物が名前だったように、鳳の舞を舞えるのは……


「そして、その舞を舞うことができるのは降魔大聖のみです」

「やっぱりーーー!!」


……、ってことだよね。
そう思っていた事が的中し、もう苦笑いしかできない。


「いくら貴方と名前の力があるとは言え、降魔大聖はまだ璃月港へ踏み入れることに抵抗があるようですし、今回は共に舞台には立たないのでしょうね」

「イメージがわかないぞ」

「ふふっ。ですが、二つの舞、鳳と凰の名を持つ舞は本当に美しいのですよ。鳳は力強く、凰は美しく。その2つが合わさった舞を、鳳凰の舞と皆が呼んでいます」

「まさに璃月に伝わる鳳凰を表した名だな!」

「そもそも、璃月で伝わっている鳳凰は彼らのことですよ」

「えぇっ、そうだったのか!?」


パイモンは驚いているけど、俺は何となくそうだろうな、と思っていた。けど、前には自分は幸運を呼ぶような仙人ではないって言ってた。その点について甘雨に聞いてみた。


「貴方なら彼らについて多く知った事でしょう。あの夫婦は、どちらも自己評価が低いために気づいていないのです。自分達が誰かの助けになっていることなど、知りもしないです」

「その点については似た者同士だよな、彼奴ら!」

「似た者と言うより、本来は1つの存在だったのではないかって程に彼らは通じ合っています。共通点も、知らないだけで沢山あるかもしれませんよ」


甘雨が言うように、きっとあの二人は気づいていないだけだ。だって彼らは璃月の為に日々戦っている。それが直接幸運に繋がるかと言われれば微妙だけど、彼らに助けられた人は確かに存在しているんだ。


「空さんは知っていましたか? 二人が璃月の理想の夫婦像と呼ばれている事を」

「おう! わりと聞いた方だよな!」

「その話は、彼らが鳳凰であるから呼ばれているのですよ。鳳凰は昔から幸福と愛、そして平和の象徴と言われていますから」


なるほど、二人が理想の夫婦像と呼ばれていたのは、鳳凰から来ていたのか。なんだか納得した気分。
というわけで話はと名前から変わって、二人で話し込んでいる間にしていたらしい姉妹弟子同士の内容に入った。

そこで漸く留雲真君が現れたが、その内容についてはまた今度。
……それにしても、名前はが心配していることに気づいていないのかな。



***




「未だに仙人と会話していることに驚きです」

「そう畏まらないで下さい、雲菫さん。私なんて大した仙人ではありませんから」


彼女達がいる場所は、俗世から切り離された空間。またの名を、仙人が創り出す洞天という世界。
2人がいるのは、仙人名前の洞天だ。その場所に二人で過ごしていた。何故この組み合わせなのか……それは。


「___この衣装はどうでしょうか!?」

「こ、これはまた華美なものですね。ですが、私はいつも通りの格好で…」

「なりません!! お気に召さないのなら、また別の衣装をご用意します!!」

「申し訳ないですよっ、雲菫さんっ!?」

「いいえ! 周りの目を欺くためとはいえ、仮にも私は貴女の師範! であれば、弟子を着飾るのも、師範の役目です!!」


仮初めではあるが、師範と弟子、という関係であるからだ。
実はこの一ヶ月、名前は雲菫と共に凰の舞の精度を高めるべく篭もっていたのだ。

海灯祭のステージに立つことになった名前の衣装決めのため、ここ最近雲菫は名前の洞天へ訪れていたのだ。内容を知らないものが端から見れば、衣装を持って名前に迫る雲菫という光景は不思議なものに見えるだろう。


「ここ一ヶ月で、貴女が納得できる所まで出来上がったのです。衣装も演目に必要なものです、その出来に見合う衣装で望みましょう。細部まで拘れば、きっと貴女の想いも相手に伝わりますから」


そう告げた雲菫を見つめる名前は、どのような心情だったのだろうか。それについては本人のみが知るが、雲菫が持つ衣装を手に取った名前の行動は、雲菫の言葉に対する答えだろう。






2023/08/26

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