遠い記憶の声



あの猫と別れて数時間後。時間は夜になっていた。
寝る暇などない。いつ現れるか分からない敵に警戒していたときだ。


「きゃああああああっ!!!」

「!」


___出やがったか!
魂魄の悲鳴に俺はすぐさま向かう。感知した場所へ着けば、先に着いていたのは綾瀬川だった。敵は3体。それもそれぞれ別方向に散った。


「分れて追うぞ!」

「「はい!」」


俺は街に降りた破面もどきを追っていた。
チッ、でかいくせして、すばしっこい奴だな。

角を曲がりながら進む破面を見失わないようにしていたが、遂に視界から消えてしまった、まだ霊圧で追えるはず……と思ったが、それも消えた。

伝令神機を取りだして確認したが、やはり霊圧が消えている。


「どこにいった……?」


伝令神機をしまい、再度辺りを見渡していた時だ。視界に入ったもの、それは魂魄らしき影だった。
近くへ降りれば、見た通り魂魄だった。座り込んでおり、どこか怯えている様子。もしかしたら、あの破面もどきを目撃したのかもしれない。


「おい」

「ひいいぃっ!!?」

「大丈夫だ。俺は敵じゃねェ。化け物を見たか?」


魂魄は破面はおろか、虚という名前を知らない。だから、彼ら目線で言えば化け物と言い表すほうが伝わる。
うずくまる魂魄に破面について尋ねたが、首を横に振るだけだった。見ていないとも取れるが、その表情が怯えているようにしか見えない。


「心配するな、もう大丈夫だ」


身体を震わせる魂魄に再度、危険はないと伝えた。しかし、酷く怯えているようで、会話にならない。


「ダメか……クソッ」


……仕方ない。このまま放って置くわけにもいかないし、とりあえず様子を見よう。少し離れた場所に移動し、連絡を取ろうと伝令神機を取り出す。

まずは拠点で待機している自分の部下にと、電話を掛ける。



『はい』

「松本か、俺だ。破面もどきを追っていたんだが、また逃げられた」


数コール後、松本と繋がった。
先程まで破面を追っていたが逃げられたことを伝えた。松本の所には魂魄の兄妹がいる。特に翔太は1度狙われていたため、用心しなければ。


『隊長は今どちらに?』

「襲われていた魂魄を保護している。何か知っているか聞いたんだが、怯えていて話にならない。とりあえず、1度戻る」

『了解しました。それではこちらも戻ります』

「分かった。合流は___」


言葉を続けようとした瞬間、気配に気づく。それは、先程逃がした破面の……!


「ッ!!」


振り下ろされた拳をかわし、斬魄刀を抜く。咄嗟の事だったため、伝令神機を落としてしまったが、気にする余裕はない。

……急に気配を感じた。それも、あの魂魄がいた場所からだ。
そういや、あの魂魄はどこにいった?

あの位置だったなら、魂魄が無事なはずがない。あれだけ怯えていたんだ、襲われたなら悲鳴が聞こえるはず……。いや、待てよ?


あの破面もどきが現れた場所はあの魂魄がいた場所だ。そして、あの魂魄は姿を消した。……まさか!


「テメェ……!」


こいつ、人間の魂魄に変身していたのか?
そうだったならば、あの魂魄が消えたのも、あの破面もどきが現れた位置も説明が付く。

……なるほど、そうやって魂魄を襲っていたのか。


「ぐあああああああッ!!!」


斬魄刀を両手で構え、破面もどきの様子を窺う。ゆっくりと角から出てきた破面もどきは、こちらに狙いを定めると襲いかかってきた。……おせェ!


「ふッ!」

「ぐっ!?」


俺は破面もどきの攻撃を躱し、片腕を斬った。前回遭遇したとき、この破面もどきの生け捕りを試みたが失敗に終わった。今回こそは……そう思ったが、再び魂魄に化けた破面もどきが素早い動きで逃げていく。


「チッ」


急いで追いかけ、角の所まできたがその先は表通り。更にはその姿さえ見えない。……また逃げられた。
次に高い場所へ移動し霊圧を追おうとしたが、やはり感じ取れない。……くそっ。


「日番谷隊長!」

「綾瀬川」

「乱菊さんから連絡が。大丈夫ですか?」


そうだった。彼奴と通話中に破面もどきが現れ、襲われたんだった。
しかし、これはかなり……


「……面倒なことになったぞ」

「え?」

「詳しいことは戻ってから話す」


今俺が見たことは揺るぎない事実。だからこそ、一刻も早く試さなければならないことがある。
……俺の推測はどのような結果になるのか。俺は綾瀬川と共に拠点へと向かった。



「……これは面倒なことになったな。さて、お前はこれをどう対処するんだ?」



___その時、声が聞こえた。
咄嗟に振り返ったが、そこには何もない。……俺の、気のせいだったのか?


「どうしたんです、日番谷隊長?」

「綾瀬川、何か聞こえなかったか?」

「いえ、特には……。何が聞こえたんです?」


綾瀬川に問うて見たが、何も聞こえなかったという。
……破面もどきの声ではなかった。そもそも、あの濁ったような霊圧を感じなかった。


「いや、気のせいだったようだ。行くぞ」

「はい」


何故なら、今聞こえた気がした声は……遠い昔に聞いたのが最後である、名前の声によく似ていたのだから。






続きます

2023/10/2


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