自称青色の姉と、認めていない白色の弟
次の日。
俺は義骸に入る事なく、街の監視を電柱の上に立って行っていた。
高い場所なら、異変があった際に気づきやすいためだ。
「……はぁ」
考える事は昨晩の事。
夜、それぞれの拠点に散り次の日に供え眠りについていたときだ。
例の魂魄の少年……名を翔太と言うのだが、そいつを連れ帰り詳しい話を聞いた。魂葬しようと思ったが、あまりにも必死に抵抗するため理由を訊いたところ……『こっちでやることがある』らしい。
とりあえず様子見ということで、拠点にさせてもらっている井上織姫の家に連れ帰った後……彼奴が松本の斬魄刀を持って逃走した。その行動の真実については後ほど話そう。
逃げた翔太と、奴を追った松本の元へ駆けつければ、そこには斑目が倒した虚……破面がいた。綾瀬川が奴のことを破面もどきと呼んでいたため、俺もそう呼ぶ事にした。存在としては間違っていないからな。
あまりにも瓜二つすぎる姿に初めは驚いたが、どうやらあの破面もどきは増殖するようだ。
昨晩は感知できた破面もどきは、別の場所にいた斑目と綾瀬川と共に殲滅。どういう原理なのかはまだ分からん。資料を技術開発局に回して、解析して貰っている。
だが、それだけでは終わらなかった。
数が多かったため、翔太と出会ったあの公園で破面もどきを一掃した後だ。斑目と綾瀬川と合流し、それぞれ報告を受けていた時にそれは訪れた。
『ゆい……? 唯! 唯!!』
突然として現れた魂魄。それは生前、翔太の実の妹だという少女……名を唯という者だった。
俺と松本が拠点として滞在させて貰っている井上織姫の家に連れて帰り、詳しい話を聞いたところ……どうやら、翔太が現世に留まる理由は妹だったらしい。
妹と離ればなれになっていたことについて、話は二人が死んだ場面から始まる。
その日は二人は家族で出かけており、車で移動していたそうだ。だが、前から来た別の車両と衝突し、二人は死亡。
霊体となったあと、父親と母親の姿はなかったそうだ。そして、恐らく妹も。だから探していたのだろう。しかし、解せない部分がある。それは、突然として現れた唯のことだ。
タイミングがあまりにも出来過ぎている。そう思ったんだ。それについて翔太に問おうとしたが、浮竹から連絡が入り中断。
浮竹から連絡の連絡については、あの破面もどきについて。解析していた技術開発局の阿近から破面について伝えられた。
内容はこうだ。あの破面は増力しているのではなく、ただの分身体であったということ。その狙いは、阿近によると分身体を使って魂魄を食らい、力を付けるため。松本曰く、働き蟻のような奴らだったというわけだ。
分身体という事は、本体がいるという事。その本体はまだ姿を見せていない。特定する術がないか問うたが、回答は『難しい』だった。しかし、あの破面が現れる際、必ず聞こえるものがある___それは笛のような音だ。
あの音が何なのか。実際に目撃したという松本によれば、魂魄の動きを奪い、コントロールしているという。その点から出現場所を特定できるように解析を進めるという所で、阿近・浮竹との通信は切れた。
その後、食料調達に出ていた斑目と綾瀬川が帰宅した。食事を済ませ、今後について俺達は話し合った。
現状、どこから現れるか分からない以上、広範囲に目を光らせなければならない。破面もどきが現れた際、素早く対応できるように、ということで監視範囲を広げる策を取った。
だが、全員が街を監視するわけにもいかないため、松本を魂魄の兄妹に着かせた。どうやら翔太は少し松本に気を許している節があるようだしな。
『魂葬はしなくていいんすか?』
話が一区切りした際、斑目がそう俺に問いかけた。
『……いや、それは後でもいいだろう』
魂魄を長く現世に留まらせるのは良くない事は分かっている。……だが、どうしてもあの兄妹をすぐに魂葬させることが俺にはできなかった。
『そうっすか』
『なるほど、日番谷隊長は優しいね』
『あ?』
『兄妹が折角会えたんだから、しばらく一緒にいさせてやろうって事だよ』
『隊長……』
『うるせぇ』
確かに綾瀬川の言った通り、折角会えた肉親なのだから、すぐに別れさせるのは可哀想だと思ったかもしれない。戸魂界に、流魂街へ行けば別々になってしまう可能性が高いのだから。
だが、今思えば___俺の私情が混ざっていたのかもしれない。
今、藍染の件で心を痛めてしまった桃のことや、100年前に姿を消した彼奴……名前が浮かんだから。
現状を言えば、桃は居場所が分かっているから回復を待っている状態だ。だが、名前は……今どうなっているか分からない。
現世にいる間に何か手掛かりがないか探す事は可能だろう。しかし、俺は任務として現世にいる。私情で動くわけにはいかない。
『私が戻ってくるその時まで、ここを頼むな』
目を閉じれば思い出す。青い髪を靡かせながらこちらを振り返り、水色の瞳で俺を見つめる名前の姿。姉を自称する彼奴が懐かしい。俺は認めちゃいねーけどな。
……あれだけ目立つ容姿ならば、一目見ただけで分かる。だが、その見つける行為が果てしない者で。
現世は広い。名前が今いる空座町にいるとは限らない。けど、期待している自分がいるのは本当の事で。
「……任務に集中しろ、俺」
頭を振り、任務のことを考えようと切り替えた……その時だ。
「にゃーん」
聞こえたのは鳴き声。その声は初めて聞いたはずなのに、どこか聞き覚えがあるような……そんな鳴き声だった。
声の聞こえた方へ振り返れば、水色の瞳と目が合った。……なんと、そこには見覚えのある猫がいた。
……確か猫は高い場所を好んでいるんだったか?
にしてもここは高すぎる……って。
「お前、俺が見えるのか?」
「にゃ」
俺の言葉に返事をするように、猫は鳴いた。まるで人と話している感覚だ。動物に詳しくないが、懐くとこんなにも会話が成り立つものなのか。
「そうか。けど、俺は今仕事中なんだ。わりぃが今日は遊べねーぞ」
「にゃあ……」
どこか悲しそうな声で鳴く猫。心なしか表情も悲しそうに見える。感情豊かだな、こいつ。
とりあえずこの高さは危険だからと、地上に降ろしてやる。
「義骸……って言っても分かんねーか。この格好じゃねーときは相手してやるから。じゃあな」
それだけ伝え、俺は任務に戻った。
……ふと、いなくなったのか気になって振り返った。
「もう行ったのか。聞き分けの良いヤツだな」
俺が下ろしてやった場所に、猫はもういなかった。
続きます
2023/10/2
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