第2節「雄英体育祭:前編」
同じく私と同じチームだった子……B組の子も辞退を申し出てきた。
切島君が「漢らしいな……!!」って言って泣いてたんだけど、なんで泣いてたのかな。感動?
しかし、これをミッドナイト先生はどう判断するかになる。
流石に辞退したいって申し出て許可無く棄権する事はできないだろうし……
「そう言う青臭い話はさ……好み!!庄田、尾白の棄権を認めます!!」
好みで決めた!!
ほんっとう雄英って自由!!
……何となくだけど、周りと心の声が一致した気がする。
「お前はどーすんだ」
前にいたかっちゃんがこちらを振り返ってそう尋ねた。
……私はこのチャンス、逃す気はないよ。
「私は出るよ。同じチームだった2人の意思を持って、最終種目に出場する!」
かっちゃんの目を見て、はっきりそう言う。
目の前にいる彼がニヤリと笑った。
「そう来なくちゃなァ」
約束だもんね。
どっちが上なのか白黒付ける。それが目的でかっちゃんは私を雄英に誘い続けたのだから。
「苗字さん。貴女は?」
「私は出ます。辞退した彼らの意思を持って、最終種目に出場します」
ミッドナイト先生に最終種目に出る事を伝え終わった時、何かが肩から掛けられた。
何だろうと思い、掛けられた物を見た。
「これ……」
体操着の上だ。
一体誰の体操着だ……?と思ったが案外早く持ち主は見つかった。
「ちょっとかっちゃん!!?上着ないとダメでしょ!?」
かっちゃんの体操着だった。
だって近くに上半身裸の人がいたら驚くでしょ!?
あ、結構良い筋肉の付き具合……って違う!!公衆の面前なのだから、この格好はまずいって!!
慌てて体操着を押し付けるように持ち主に返す。
「あ?いらねーよ」
「ダメだよっ、私の体操着は更衣室にいけばあるからっ」
「黙って着とけクソ!!!」
「クソって何!?確かに露出は多くて目のやり場に困るのは分かるけど、他のチアの人だって着てるじゃん!!」
「うっせ黙ってろ!!!」
ダメだ、受け取ってくれない……!!
「爆豪……っ、漢らしいぜ!!!」
「そんなこと言ってないで、手伝って切島君!?」
切島君にそう言われ、しまいにはミッドナイト先生から「青臭いわね!!すごく好み!!!」と言われる始末……。
確かに目立ちたかったけれど、そういう意味で目立ちたいんじゃないってばー!!
***
・
2名棄権したことで枠が2つ空いた。
その空いた枠にはB組のチームから繰り上がってきた。
さて、気を取り直して抽選開始だ!
「抽選の結果、組はこうなりました!」
モニターに映ったトーナメント表に名前が表示される。
えーっと、私は……。
「上鳴君か……!」
「よろしくな〜苗字っ」
相手は上鳴君のようだ。
先程の件もあるのでちょっと意地悪したい所だ。
「あァ?麗日?」
「ヒイィィィィッ!!?」
嘘でしょかっちゃん……、まさかまだクラスメートの名前覚えてないの?
まあかっちゃんは基本人の事覚えないし……。私といーちゃんは小さい頃から一緒だったこともあって嫌でも覚えているだろうけどさ。
かっちゃん、お茶子ちゃん怖がってるでしょ?
それに……!
「ほらかっちゃん!いつまでもその格好じゃダメでしょ!!」
「っ、おいッ!!」
「今すぐ着替えてくるからー!!」
かっちゃんに体操着を押しつける事に成功し、その場を離れる。
「あっ、名前ちゃん!これから女子みんなで応援しようと思ってるんだけどどう!?折角チアの格好してるしさ!」
更衣室へ向かっていると、透ちゃんが声を掛けてきた。
そのお誘い、とても受けたいんだけど……。
「ごめんね、今すぐ着替えないとかっちゃんがずっとあのままだろうし……」
目線を幼馴染みの方へちらっと移す。
渋々と言った動作で体操着を着ている。その場で。
「愛されてんじゃん〜、名前?」
「も、もうっ。響香ちゃん!」
だからそんなんじゃないって言ってるじゃん!!
だが、私が誘いと断る理由はみんなから見ればそうとしか思わないか。
それはそれで好都合だ。今、隙を見せるわけに行かない。
「じゃ、じゃあ私は更衣室に行って、その後は休憩しておくよ……」
「分かったわ」
私の言葉に梅雨ちゃんが答えた。
みんなに手を振りながら、更衣室に向かって走った。
「……」
私の背中を黙って見ていた赤い瞳を知らないまま。
2021/07/10
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