第2節「雄英体育祭:前編」



強い衝撃を感じた瞬間、酷い頭痛が私を襲った。
何だろう、あの男子生徒と話した後からの記憶が全くない……。



「ご苦労様」



その声が聞こえ、顔を上げる。
薄い紫色の髪には覚えがあった。交渉時間中に話しかけてきたあの男子生徒だ。


「待って」


去ろうとするその子の腕を掴む。
私の手を振り払おうとせず、こちらを振り返った。


「……君、私に何をしたの?」

「何をしたと思う?」


答える気はないようだ。だけど、私としては答えてくれないと困る。
あの感じ、忘れたくても忘れられない感覚だったんだ。吐き出して貰わないと……!


「どうしたら教えてくれる?」

「なんで知らねェ奴に教えなきゃなんない訳?」

「苗字、苗字名前。……これで知らない人ではないよね?」


ニヤッと笑ってみせれば向こうもニヤリと口を変化させた。
こちらへ身体を向けたので、掴んでいた腕を放す。


「『心操 人使』。それが俺の名前。そして、個性は『洗脳』だ」


せん、のう……。
彼の……心操君の個性を聞いて先程までの記憶が無いことに納得した。
自分の意思でやっていないんだから覚えていなくて当然だ。


「そっか。教えてくれてありがとう」

「ありがとう?操ってた奴に礼を言うなんて可笑しな奴だな」

「可笑しな奴で結構。知りたかったから聞いたんだよ?」

「ふーん……」


心操君は納得していないような表情で私を見る。
しかし、洗脳させる個性もあるとは。


「じゃあ、あんたの個性は何なんだよ」


向こうだけ喋らせておいて、自分の個性を言ってないのはダメだよね。
心操君の目を見て口を開く。


「私の個性は『擬態』。そうだね……物語に出てくる職業を使える個性だよ。剣士とか魔法使いを思い浮かべてくれたらいいよ」

「……ふーん」


意外と反応が薄いな。聞いてきたのそっちじゃない。
もう用が無いのか、今度こそその場から去って行った心操君。
その背中を見つめていると後ろから衝撃が。


「名前、お昼一緒に食べよ」

「きょ、響香ちゃん」


私の背中を押したのは響香ちゃんだったようだ。どうやらお昼のお誘いみたい。
断る理由がないので了承する。


「しかし、騎馬戦でも名前は凄いなぁ」

「ほ、ほんと?」

「うん。うちの騎馬、足取られちゃったもん。何だったかな、鎖だった気がする」




それで浮かぶのはたった1人、エルキドゥだ。



「で、奪い返そうとしたら次は炎だよ」

「ほの、お」


炎を使う子は3人が相当する。
……記憶の無い私は、何をやったのだろか。





2021/07/10


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