第8節「忍び寄る魔の手」
お昼
私は何故か屋上にいた。
「あの……。なんで私、ここでお昼食べているんでしょうか……」
呼び出し主は私の視界に入っている英雄王ことギルガメッシュ王私服verである。
彼は腕を組んで下を見下ろしている。ほんと高い場所好きね、貴方。
私は高いところは苦手だし、何よりお腹空いてご飯を食べたいから見ないけど。
「これから起こる事から助けたのだ。感謝せい」
「何が起こるの?」
「朝見ただろう、あの雑種の群れを」
「雑種の群れ……。ああ、取材陣の事ね」
ん?と言うことはギル、千里眼使えてるんだ!
でも、擬態中のときはギルの千里眼使えなかったよ?
マーリンの時は千里眼という能力ではあったけれど彼と同じ能力は使えず、千里眼という能力に相当するものが使えるようになった。
「マーリンの千里眼は使えたのに、ギルの千里眼は使えなかったな」
「こちらに来た影響か知らんが、千里眼の力が弱まっているようだ」
「そうなんだ〜。じゃあ、その未来が見えたのは奇跡?」
「口を慎め、雑種」
わあ、久しぶりに雑種呼びされた〜。
と、別の事を考えていると耳をつんざくような音が辺りに響いた。
「な、何!?警報!?」
「侵入者、と言えばいいか」
気になって恐る恐るギルの隣に立って下を見下ろす。
……確かに、人が集まってる……。
「あれ、そういえば雄英のセキュリティにみんなは引っかからないの?」
「霊体化はあらゆるものとの干渉を薄める。あのような代物であろうと我に対しては無意味だ」
なるほど。つまりみんなには雄英バリアは効かない、と。
だから小太郎が雄英の構造を把握していたり、相澤先生の事を書かれた資料などを見たりできたのか。
……それ、大丈夫なの?できれば関係ない情報は勝手に集めてきて欲しくないんだけど?!
「これ、いつになったら教室に帰れるんだろ……」
「しばらくは無理だろうな」
「ところでギル、なんで来たの?今日護衛じゃない……というより、いつも護衛してくれないじゃん」
「気が向いただけだ」
数分後、パトカーのサイレンが聞こえて報道陣がみるみるうちに消えていった。
「No.1ヒーローというものは大変よな。我は知らんが」
「この騒動の原因って、まさかオールマイト先生?」
「そうだ。この雄英に就任した事がどこかで漏れたんだろうよ」
ギルの発言から察するに、オールマイト先生が雄英に就任した事は秘密だったのだろう。
確かに、どこで情報が漏れたんだろう……。
そんなことを思いながら教室へ戻った。
「苗字!!どこに行ってたの!?」
教室のドアを開けた私を迎えたのは三奈ちゃんだった。
「え?どこって……なんで?」
「セキュリティが突破されたんだよ!!みんなパニックになっちゃって……。苗字大丈夫だった?」
「私はこの通り、なんともなかったよ?」
「それなら良いけど……」
どうやら教室に戻ってくるのが遅かった為、心配されてたらしい。
こんなにも優しい人達に恵まれていて……。私、幸せだ。
***
昼休みが終わり、授業の時間になった。
この時間では他の委員を決めるみたいだ。
「けど……その前にいいですか。委員長はやっぱり、飯田天哉君が良いと思います!!」
突然いーちゃんがそう言ったのだ。
「あんな風にかっこよく人を纏められるんだ。僕は飯田君がやるのが正しいと思うよ!」
「俺はそれでも良いぜ!緑谷もそう言ってるし、食堂で活躍してたし!」
「ああ!それに、何か非常口の標識みたいになってたよな〜」
……一体食堂で何があったのだろうか。
そして未だに食堂に行けてない私。今度、いーちゃん達の所にお邪魔させて貰おうかな?中学の頃はいつも一緒に食べてたんだし、それに麗日さんとちゃんと話せる様になりたい。
「委員長の指名ならば仕方あるまい。以後は、この飯田天哉が委員長の責務を全力で果たすことを約束します!」
「任せたぜ非常口!」
と言うことで、委員長はいーちゃんから飯田君へと変更になった。
百ちゃんの心の声が聞こえて苦笑いしてしまったのは、彼女には秘密だ。
「そういや飯田に入ってた票、誰だったんだ?」
「自分に入れてなかったみたいだしね」
ふと、午前中の投票の話になり飯田君に入った票について話が投下された。
「あ、それ私だよ」
「苗字だったのか〜」
隣にいた瀬呂君と斜め前の席に座っている響香ちゃんに、自分だと伝える。
「君だったのか、苗字君……!!」
「え、あっうん」
あまりにもの(感激の)圧に少し引いてしまう。
「だって飯田君、真面目そうだし。委員長に向いてるな〜っていう完全な私の偏見だったんだけど……」
「ありがとう、苗字君!!!」
「よ、喜んで貰えたなら良かったよ……」
私の手を握り、握手をする飯田君。
こ、これは中々お堅い真面目さんだね……。うん、悪くないと思うよ。
第8節「忍び寄る魔の手」 END
2021/07/03
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