第7節「二人のリスタート」



「苗字!反省会するんだけどどうかな?」

「うん、是非参加させて!」


放課後
帰りの支度をしていると、三奈ちゃんに声を掛けられた。
その誘いの内容だが、断る理由もないので頷いた。


「爆豪もどう?」

「……」


三奈ちゃんの言葉にかっちゃんは黙って外へ行ってしまった。
ヒーロー基礎学のあと、かっちゃんは大人しくなった。そのことが気になって、私は抱えていた荷物を机に置いた。


「私、連れ戻してくるよっ」

「えっ、苗字!?」


出て行ったかっちゃんを連れ戻す為、三奈ちゃんの声を聞きながら私も教室を飛び出した。
うぅ、かっちゃん歩くの速い……。
荷物を持っていたから、このまま帰る気なのだろう。
見ている人視線からのアドバイスも大事だと思うんだけど、それはかっちゃんの心に傷がはいるのだろう。


「!いたっ、かっちゃん!!」


既に玄関から出ていたかっちゃんを、室内用の靴のまま追いかける。
手を掴むとかっちゃんに振りほどかれてしまった。


「くんな」

「嫌だ」

「……チッ」


いつもより低い声にビクッとしてしまう。
……機嫌、悪いのだろうか。
でも今日のかっちゃんは何故か一人にしたくない。そう思ったんだ。


「どうして先に帰るの?一緒に帰ろうよ」

「うっせ」


……どうしても一人になりたいらしい。
どうにかして止めようと思っていたその時。


「かっちゃん!名前ちゃん!!」


もう一人の幼馴染み……いーちゃんの声が、私とかっちゃんを呼んだ。


「あァ?」

「いーちゃん……」


コスチュームを着たまま、保健室で受けた治療の痕が分かるほどにボロボロないーちゃんがそこにいた。


「これだけは、2人には言わなきゃいけないと思って……」


いーちゃんの言葉に、私は彼の方へ身体を向ける。かっちゃんは背を向けてるけど。


「僕の個性は……人から授かったものなんだ」


いーちゃんの発言に私は勿論、かっちゃんも声をあげた。


「誰かからは絶対言えない!……言わない。でも、コミックみたいな話だけど本当で……。おまけに、まだろくに扱えもしなくて……全然ものにできてない状態の、借り物で……。だから、使わず君に勝とうとした。けど、結局勝てなくてそれに頼った」


いーちゃんの言葉が紡がれる中、隣でかっちゃんの何かを抑えるような声が聞こえる。……イラだってきているのだろう。


「僕はまだまだで……。だから……、だから……いつかこの個性をちゃんと自分のものにして___僕の力で二人を超えるよ!!」


真っ直ぐな瞳が私とかっちゃんに向けられる。
…まさかの超えてみせるよ宣言。思ってたのと違ってポカーンとしてしまった。


「……なんだそりゃァ」


やっと口を開いたと思えばその言葉だ。
かっちゃんは身体ごといーちゃんの方を向き、私の数歩先に立った。


「借り物?訳わかんねー事言って……。これ以上虚仮にしてどうするつもりだァ……!なァ……!!」


かっちゃんを見て、目が見開いていく感覚がした。
だって今まで見た事がないんだもん。


「だからなんだ……!今日俺はてめェに負けた。そんだけだろうが……!そんだけ……!!」


かっちゃんが肩をふるわせ、見て分かるくらいに悔しそうな態度。
初めてだ、悔しいという感情を見せたかっちゃんを見るのは。


「氷の奴見て、適わねェんじゃって思っちまった……!ポニーテールの言う事に、納得しちまった……!!」


かっちゃんは知ったんだ。……負ける悔しさを。
今までは何でもできたから、誰もが自分の才能を褒め称えるから。


「こっからだ!!俺はこっから!!いいか、俺はここで一番になってやる!!!」


かっちゃんはいーちゃんに向かってそう叫び、私の横を通り過ぎた。
……そっか。彼はすでに立ち直っていたんだ。なら、言う事はない。


「かっちゃん」


名を呼ぶと立ち止まった。


「また”明日”」


それは『明日会おうね』という意味でもあり、『明日からリスタートしよう』という意味でもある。
……かっちゃんは気付いてくれたかな。





2021/07/02


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