第4節「敵」
「じゃあ、推薦受けるんだね」
「はい」
放課後
教師に呼び出され、推薦の話を正式に受ける事を話した。
いーちゃんとかっちゃんがオールマイトに憧れてヒーローを志したと同じように、私は両親に憧れてヒーローを志した。
二人がオールマイトを追うのなら、私も両親を追い、ヒーローになる。
……いつか聞いた事がある。
お父さんには”ライバル”と言える存在がいた。その人とは別々の高校のヒーロー科に進み、互いにヒーローとなったと言う。
その話を再現したいわけではないが、同じヒーローとなるならばこういうのもまた一興かなって思ったの。
「……私はヒーローになるよ」
私が何も出来なかったばかりに犠牲になった人がいた。目の前で消えてしまった。……もう、そんなのは見たくない。
だから私は戦えるようになりたい。ヒーローになって誰かを守れる力が欲しいんだ。
これは私のエゴだ。それは分かってる。
でも、もう二度と見たくないんだ。そして私が戦えるようになれば…強くなれば誰も傷付かないし、いなくならないから。
***
教室へ続く廊下を歩きながら思い浮かべるのはいーちゃんだ。
帰る方向が同じなので、小学生の頃から今までずっと一緒に下校していた。登校は……ほら、家を出るタイミングは違うし。それに、一緒に登校するとなると向こうに迷惑かかっちゃうし。まあ偶に一緒に登校する事もあるんだけどね。
「ちょっと時間かかっちゃったなぁ……。いーちゃん、退屈してるだろうな」
今日も一緒に下校する約束をしている。先に帰っちゃったら帰っちゃったでいっか。そんな事を思いながら教室の扉を開けようと手を伸ばした。
「そんなにヒーロー就きてェんなら、効率いい方法あるぜェ?____来世は個性が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイブ!」
……またか!
声の主が誰なのかすぐに分かった。
教室の扉を思いっきり開けると、音に反応して視線が一気に集まった。そんなのお構いなしに私はずんずんと声の主の元へ歩く。
「何言ってるのかっちゃん……! その言葉の意味、分かって言ってるの!?」
いーちゃんが無個性である事はクラスに認知されている。個性がないのは悪い事ではない、発現しなかった人もいる。なのにこのクラスでは『個性がないのは珍しい』『可哀想な奴』と言った憐れみの対象としていーちゃんを見ている。
……そんなの、おかしいよ。
かっちゃんは赤い瞳で目の前に立った私を見下ろす。私はそんなかっちゃんを見上げる。
しばらく見つめ合った後、かっちゃんはハッと鼻で笑った。
「俺は間違ってないぜ?なァ、お前も分かってんだろ?……デクはヒーローになれねェって」
「……!」
「だから言ってやったんだよ。ヒーローになれる方法を」
かっちゃんは勝ち誇ったようにそう言うと、教室を出て行った。彼に続くよう、二人のクラスメイトも出て行った。名前は分からない。でも最近かっちゃんに引っ付いている男子という事だけは覚えている。
「ごめんねいーちゃん、遅くなっちゃって。怪我は無い?」
「うん、大丈夫だよ」
そう言って無理に笑っているのは良く知っている。
先程までの事を忘れようと、いーちゃんの手を引いて帰ろうと口にしようとした瞬間、いーちゃんが口を開いた。
「あのさ名前ちゃん。実は職員室に用事があって……」
「そうなの?」
いーちゃんは私と話しながら、ある一点をチラチラと見ていた。その方向は……窓。
怪しい……いーちゃん何か隠してるな?そう思った時
「落とし物はこれかな?」
急に聞こえた第三者の声。……まぁ、私には聞き慣れた声なんだけど。
「ランサー…!」
「あ、そっ、それは僕の……!」
声のした方へ振り返ると、教室では目立つ格好をしている人物……エルキドゥが『将来の為のヒーロー分析ノート』を持ってそこにいた。
何を隠そう、彼は今日護衛として私と一緒に学校に来ていたのだ。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
エルキドゥはボロボロになっているノートを持ち主であるいーちゃんに渡す。……うんうん、分かるよ。エルキドゥ美人だものね。すごく分かるよその気持ち。
自分に微笑みかけたエルキドゥに見取れているいーちゃんに近づき、ノートを見る。
「これ……」
「まぁ、この焦げ具合から分かっちゃうよね……」
これをやるのはたった一人。そして、その様子を途中から見ていたので誰がやったのかなんて考える必要はない。…かっちゃんだ。
「どうする?もしかしたら直せるかも知れないって人いるけど……」
「いや、いいよ。大丈夫」
「そ、そっか……」
「それよりも!今日の朝の事をまとめないと!」
無理矢理話題を変えたのは態と気づかないフリをし、荷物を持つ。
どうやら朝登校中に新しいヒーローを見た様だ。今日は登校中会わなかったのはそれだったか。
私といーちゃん、霊体化したエルキドゥは学校を後にし、いつも通りの帰り道を歩く。
今日の朝の事をペラペラと話すいーちゃんは生き生きとしている。…何を隠そういーちゃんは所謂ヒーローオタクというものである。
……こんなにも大好きなのに、いーちゃんはヒーローになれない。なんて不憫なんだろうか。
「いーちゃん。かっちゃんの言葉、気にしたらダメだよ」
「え?」
「さっき言ってたじゃない、前例がないだけだって」
「!」
「そ、そうだよ!僕は決めたんだ!周りの言う事を気にしないって!!」
拳をぐっと握っていーちゃんは高らかに言う。
そして、自分の頬を叩いた。
「えっ!? そ、そんな強く叩いたら腫れちゃうよ!?」
「僕、忘れてた……。そうだよ、周りの言う事は気にしない!!前を向いて突き進め!!」
いーちゃんはオールマイトの真似なのか「はーっはっはっは!!!」と笑いながら先を歩いて行く。
……またいーちゃんに言えなかった。
その事をまた胸の奥に隠し、前を歩くいーちゃんの背中に追いつこうと小走りで走った。
「そうそう!その意気だよいーちゃんっ」
私がそう声を掛けると、いーちゃんが立ち止まる。そして後ろを振り向いたので、私もつられて後ろを向いた。
そこには……
「敵……!」
ヘドロのような姿をした敵が私達を見下ろしていた。
***
(余談)
実は緑谷君のノートが窓に放り投げられた瞬間、見えないところでキャッチしていたエルキドゥ。なのでノートは濡れてません。(人がいなくなる&主人公が帰ってくるまで隠れてた)
2021/04/10
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