第5節「泡沫の夢」



_____て



……声が聞こえる



____きて



……いつまでも聞いていたい声が



「あっ、起きた? ……おはよう、名前ちゃん」



ぼやけていた頭が覚める
脳が機能し始めた事で、視界もはっきりした
その視界いっぱいに映っているのは……


「ドク…ター……?」


こちらを見てニコリと微笑むのは、確かにドクターだ

……嗚呼、これは夢だ
私が作り出した幻だ
私が願った妄想だ


「妄想とか幻とか夢とか……流石にそこまで言われると傷付くなぁ……」

「あっ……ご、ごめんなさい」

「まあでも、君がそう思うのならそうなのかもしれないね」


ドクターは身体を起こし伸びをした後、今だ仰向けに身体を寝かせている私に手を差し伸べた
その手を握ると、確かに温もりを感じた


「……あんなに小さかった少女が、こんなにも綺麗になるなんてね」


ドクターが私の髪をとかすように頭を撫でる
彼の表情は私にはどこか悲しそうに映った


「君はボクに囚われている。……ずっと僕を探していたんだろう?」

「!!」


その通りだ
私はずっと探していた……ドクターの、ロマニの背中を探し追い続けた
受け入れているよう振る舞っていただけで、本当は受け入れていなかったんだ……彼のいない日常を


「……ボクはあの時、君を手に差し伸べたことを後悔していない。君に“生前のボク”の様になってほしくなかったから共に“旅”をした」

「ええ。“人間とは何か”……それを知る旅でした」

「君はちゃんと人間へとなれた。こんなにも愛らしく、綺麗になった。ボクの想いは叶ったのさ」


ゆっくりと引き寄せられた身体は、ドクターの腕の中へと抱きしめられた
……いつまでもこの状態でいたい
そう思ってしまうほどにこの夢はリアルだ


「___でもそれも、今日で終わりだ」

「終わり……?」

「うん。もう終わりにしなくちゃ」


これ以上、僕と言う存在がいる所為で君を傷つけたくない
その言葉が耳元ではっきりと聞こえた



「名前ちゃん……僕の事を忘れて欲しい」



冷たく優しい風が私とドクターの髪を靡かせた





2024/05/04


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