第4節「神野区の悪夢」


side.爆豪 勝己

※血流表現あり



「ほぅ、無言を貫くか。……まあ良い、名前を返して貰うぞ」


男がそう言った瞬間、名前の背後に金色の光がいくつも現れた。
その中から現れたのは___剣!!


「おいお前!!何しようとしてんのか分かって」

「この我に気安く話しかけるでない。我は今忙しい」


グサリ
その音が前から聞こえた。
振り向きたくない。……だってこの音は___さっきの剣が彼奴に……!!


「あ、あぁ……!」

「……貴様、もしや名前のお気に入りの雑種か?」


横からポタポタと聞こえる声。見ても無い光景が頭の中で勝手に流れる。
そんな中、上から呆れた声が聞こえた。


「まさか知らんのか?……はぁ、特別に教えてやる。名前は擬態中、元の身体には一切の怪我は負わんのだぞ?」

「……は?」

「これは擬態状態を強制的に解除・・・・・・する方法に過ぎん」

「強制…的?」

「そうだ。貴様、我が名前を殺すとでも思っていたのか?」


今のを見てたら誰だって思うだろ!!

そう思っていると、どさっと横から音が聞こえた。名前の方を見ると、鎖の拘束が外れてその場に倒れていた。


「まぁ、今の所殺す理由はない。我を愉しませてくれているしな」

「ほんとに死んで、ないんだよな……?」

「我とて好きでこの役をやっている訳ではない。この方法が手っ取り早いだけだ」


知らなかった。
手も足もでなかった名前を一瞬で無力化し、大人しくさせるなんて……。名前の元に駆け寄って声を掛けようと立ち上がった瞬間だった。


「! うぉッ!?」


急に後ろに引っ張られたと思えば、後ろにあった壁(恐らく瓦礫)にぶつかった。


「何すんだコノヤロー!!」

「貴様……その態度、この我に対して無礼であるぞ。名前のお気に入りでなければ殺していたものを……」

「そもそもお前しらねーし!!」

「助けてやったのにその態度……生意気な」


「前を見ろ」と言いたげに男が顎で指示をする。
イラッとしながらもさっきまで自分がいた場所を見ると、そこには剣に似た武器が大量に刺さっていた。

その先には……さっきの怪我がウソのように治っている名前が立っていた。


「戻ってねーじゃねーか!!」


さっき自信満々に言っていた事が出来てねーじゃねーかよ!!

と、言葉をぶつけようとしたがやめた。
男の表情がさっきのヨユーな表情から「何故」と言いたげな表情だったからだ。しばらく名前を見つめていたと思えば、顔を押さえてクツクツと笑い出した。


「ふははははは!! そう言う事か! ククク……ッ」

「おい、何笑ってんだよ」


突然笑いだしたと思えば、男は後ろを振り返った。
その表情はまさに『怒り』。純粋な赤い目を鋭くさせて……視線を辿ってみるからに、多分ヴィランのボスを睨み付けている。


「相当面倒な事をしてくれているようだな……!!」


何がどうなっているのか教えて欲しい。
名前がわけわかんねー事になってるのに、何もできないなんてイヤだ!


「俺にも教えろ! なんで名前は元に戻んなかったんだ!?」

「……貴様は此処にいても死ぬだけだ」


俺を見下ろす赤い目。
その目は怒りに満ちていた。


「命が惜しくば手を引け、雑種。名前は我が相手をする」

「誰が雑種だコラ!!」

「聞こえなかったか? それとも分かりやすく言った方が良いか? ……死にたくなければ逃げろと言っているのだ」


逃げろ……?
逃げろだって……?


「そうだよ爆豪君。君は今すぐこの場から撤退することだけを考えるんだ。マスターの事は私と王様に任せたまえ」

「はぁ!!?彼奴を置いて逃げろってんのか!?」

「そうだよ」


隣で花弁が舞ったと思えば、そこにいたのはいつか見た男。確か、名前がキャスターって呼んでた気がする。


「用は済んだのか」

「ああ。向こうにいる彼らにも逃げるように言ってきた所だ」


二人が意味分かんねー事を話しているのを訊いていると、近くでドゴンッ!!と破壊音が聞こえた。
それは後ろにいるオールマイトとヴィランのボスがいる所からではなく、横から聞こえた。

そこを振り向くと、半分野郎とクソ眼鏡、クソデクにクソ髪。


「今のマスターを止められるのは王様だけだ。……なあに、必ず助け出すさ」

「さっき助けられてなかったじゃねーかよ」

「ならば誓ってやろう。……この英雄王『ギルガメッシュ』の名を以て___名前を救うとな!!」


「さあ行くがよい、雑種!」と男……ギルガメッシュは宙に浮き出した。
それと同時に聞こえた「来い!!」という声。

見上げればこちらを見て手を伸ばす……切島。でも名前を置いてなんて___


いつの間にか宙に浮いてこちらを見下ろしていた名前が、何もない空間から剣を出現させ握ったと思えば、男に向かって急降下していった。
その衝撃波は、さっきのオールマイトとヴィランのボスの衝突とほぼ同等と言えるものだった。


「……絶対に助けろよ」

「勿論だよ、爆豪君」

「破ったら殺す」

「ははは、物騒だなぁ」


悔しいと言えばものすごく悔しい。
自分では彼奴を助けられない無力さに、あの金髪の男に頼るしかない自分に腹が立つ

……でも、分かってたんだ。今の彼奴に俺は適わないって。


「……バカかよ」


今回だけは譲ってやる。
今度あんな目に彼奴が遭った時は……いや、そうなる前に俺が助ける。





2024/03/12


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