第4節「神野区の悪夢」
side.爆豪 勝己
「……は?」
土煙の中からペタペタと足音を立てながら現れたのは……名前。
目に光はなく、表情は“無”。目の前にいる名前からは生気を感じられない。
合宿んときに着ていた服とは別の服を纏っており、首、手首、足首には千切れた鎖が付いたままの拘束具が付いていた。
……彼奴は俺と別の場所に飛ばされた。
その先で一体何をされていた?
「これが、お姫様?」
「そうだよ弔。君のお姫様だ」
名前があの手の野郎のものだァ……?前から思ってたが彼奴を姫だ姫だうっせんだよ!!
それに、名前もだ!!何クソカス連合の言いなりになってんだ!
「……おい!」
弔とか言われてた敵に変なことを聞いてる名前の肩を掴もうと手を伸ばした瞬間だ。
「!?」
腕に巻き付いた鎖。……見た事あるぞ、これ。
今でも偶に言われる『ヘドロ事件』で、俺をヘドロ敵から引っ張り上げようとしたときに身体に巻き付いていた鎖だ。
振りほどこうとしても腕はピクリとも動かず、ますます強く絞まっていく一方。その勢いは腕を絞め千切ろうと言わんばかりだ。
……こちらに振り返って無表情でその様子を見つめる名前が、本当に俺が知っている名前なのか分からなくなってきた。
「殺しちゃダメだよ、姫。彼は弔にとって重要なコマなんだから」
「! すみません」
鎖が消えた。
あの男の言葉に素直に従っているというのか……?
そして、俺を“敵”だと認識していた……?
「……何やってんだよ、名前!!」
名前の肩を掴んで揺さぶった。
どう見たって名前な事に変わりねえのに、こんな……こんな……!
「名前……?」
「ああそうだ!お前の名前は苗字名前!! まさか、忘れたとかふざけた事いわねーよな!!?」
俺の言葉に驚いたように目を見開いた名前。
一瞬だけ見せたその表情は、確かに彼奴の表情だった。
そして、頭を押さえながらその場に蹲った。
「ダメじゃないか爆豪君。彼女は君の知る彼女ではない……敵連合の偶像たる存在、姫なのだから。そうだろ、姫」
「! 私は……自分は……っ」
偶に読んでいるコミックとかにこんなシーンがある。
味方だった人物が敵に操られて敵側として現れるというシーンが。
「……そうだ。私は…“道具”だ」
……まさか、名前はあの男に操られているって事なのか……!?
それに今、なんて言った? 道具とか言わなかったか?
誰が道具だァ……?
自分の事を道具だと思ってんのか、コイツ……!
「何バカなこと言って……」
「!」
名前が急に空を見上げた。
俺の事なんて目に入っていないのか、興味が無いと言いたげな態度に段々と苛つきに似ているようで何処か悲しいと思うような…複雑でよく分からない気持ちになっていたときだ。
「……やはり、来てるな……」
「指令者、下がっていて下さい」
「いいや、僕の事はいい。弔達を守りなさい」
「はい」
男と意味わかんねー会話をしたと思えば、俺の腕を引っ張ってきた。
何すんだ……!
と思った瞬間、ものすごいスピードで空から誰かが飛んできた。
その人物は___オールマイトだった。
「全てを返して貰うぞ、オール・フォー・ワン!!」
「また僕を殺すか、オールマイト!」
オール・フォー・ワン……名前を操っている奴の名前か!!
彼奴をぶっ殺せば名前は元通りになるのか?しかし、オールマイトと五角である相手に___俺が勝てるのか?
「随分遅かったじゃないか」
響く爆音。
それはオールマイトとボスだと思われる野郎の力で生まれた力によるものだ。
「バーからここまで5km余り……僕が脳無を送り友に30秒は経過しての到着……衰えたね、オールマイト」
「貴様こそ、何だそこ工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理してるんじゃあないか!?」
オールマイトを素手ではじきやがった……!!
やっぱりコイツが敵のボス……!!
「5年前と同じ過ちは犯 さん、オール・フォー・ワン。……爆豪少年と苗字少女を取り返す!そして、貴様は今度こそ刑務所にブチ込む!貴様の操る敵連合もろとも!!」
「それは……やることが多くて大変だな、お互いに」
男の左手が膨らんだと思えば、オールマイトが吹っ飛ばされてしまった。
「オールマイトォ!!!」
「心配しなくても、あの程度じゃ死なないよ。だから……ここは逃げろ弔。姫とその子を連れて」
逃げろ?
また俺は何処かに攫われるって事か?……そんなのゴメンだ!!
2024/02/10
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