第4節「神野区の悪夢」
side.八百万 百
「はい、指令者」
その声は覚えがあった。
間違えるわけがありません。私にとって級友であり、どこか母親のような温かさを持つ人……苗字名前さん。
しかし、今聞こえたその声は冷たく感情を一切感じられないものだった。
まさか苗字さん、敵側に寝返ったとか……?いえ、そんな訳がありませんわ!
あの人は自分の個性がどれだけ強力であるかをよく分かっている方……そんな方が簡単に敵に引き込まれるとは思いません!
でも、あの様子ではそう見えて……
「“奴に止めをさせ”」
えっ……止めをってまさか……!!
ダメです苗字さん! それは、それだけは……!!
「……命令を確認。実行に移します」
直後、誰かの悲鳴と何かが破壊されたような音が聞こえた。
まさか、まさか本当に……!!
「生命反応が消滅したのを確認。……まだ他にも標的がいるようですが、如何如何致しますか」
その声が聞こえた瞬間、背中に何かを感じた。……いや、実際にはなにも感じていないのかもしれない。
殺されるかもしれない恐怖で、感じもしない何かを身体が感じ取ってしまっているのかもしれない。
ここにいてはいずれ見つかる。そして……殺される!!
逃げなくては……!!分かっているのに、身体が……動かない!!
「ゲッホ!!くっせぇぇ……んっじゃこりゃあ!!」
水音が聞こえたと思えば、次に聞こえたのは……爆豪さんの声。
今向こうに苗字さんと爆豪さんがいる。しかし、あそこにいるのは声が似ている別人なのではないか?……いや、私がそう思いたいだけだ。
なのに……
「___何やってんだよ、名前!!」
現実とは残酷なもので。
……姫と呼ばれていた人物は苗字さんで確定してしまった。
あの場で爆豪さんが彼女の名前を呼んだ。それが事実だ。
そして、あの場で誰かを殺して___。
「!」
隣にいる切島さんが向こうの様子を見ている事に気付く。
まさか、何かしようとして……!
「!?」
ダメ、絶対にダメ……!
今向こうに飛び出してしまえば、みんな死んでしまう!!
私が、私が……守らなくては……!!
2024/02/10
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