第4節「神野区の悪夢」
side.轟 焦凍
「えっと……要するに、ヤオモモから発信機の奴貰って、それ辿って自分らで名前と爆豪の救出に行くってこと?」
「おお」
「敵は俺達を殺害対象と言い、爆豪と名前は殺さず攫った。生かされるだろうが殺されないとも言い切れねえ。俺と切島は行く」
「……ふざけるのも大概にしたまえ!!」
「待て、落ち着け」
再び言い争いに発展する前に、障子が割り込んだ。
「切島の何もできなかった気持ちも、轟の眼前で奪われた悔しさも分かる。……俺だって悔しい。だが、これは感情で動いて良い話じゃない。そうだろ?」
『悲しいなァ……轟焦凍』
『焦凍君ッ!!!』
目を閉じれば流れるあの日の光景。
目の前で2人を掴む事ができず、更には俺に助けを求めていた名前を助けられなかった。
こんなの、悔しいという気持ち以外に何だっていうんだ。
「お、オールマイトに任せようよ。林間合宿で相澤先生が出していた戦闘許可は解除されてるし」
「青山の言う通りだ。……助けられてばかりだった俺には、強く言えんが」
「けどさ……!!」
「みんな名前ちゃんと爆豪ちゃんがさらわれてショックなのよ。……でも、冷静になりましょう。どれほど正当な感情であろうと、また戦闘を行うというのなら、ルールを破るというのなら___それは敵のそれと同じなのよ」
聞こえた鶴の一声。……蛙吹のものだった。
……分かっている。間違っているのは俺達の方だってことを。
静まり返った病室。その空間を破ったのはノック音だった。
「お見舞い中ごめんねー。緑谷君の診察時間なんだが」
「い、行こうか。耳郎や葉隠の方も気になるし」
「そ、そうだな」
「デク君、お大事にね」
ゾロゾロとクラスメイトが病室を出て行く光景を見る。
そんな中、隣にいた切島は緑谷の方へと歩み寄った。
「……八百万には昨日話した。行くなら速攻、今晩だ」
今日、俺と切島は爆豪と名前を救出に行く。
……その事を切島は緑谷に話していた。
「重傷のおめーが動けるかどうかは知らねぇ。それでも誘ってんのは、おめーが一番悔しいと思うからだ」
緑谷にとって爆豪と名前は幼馴染。
爆豪から嫌われていようとも緑谷にとっては大切な人である事に変わりなくて、名前も然りだ。
「今晩、病院前で待つ」
切島は緑谷の返事を待つこと無く病室を出て行った。
俺もその後を追って病室を後にした。
2023/11/05
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