第4節「神野区の悪夢」


side.緑谷 出久



「……」


僕はヴィランが撤退した後、近くの病院に運ばれ入院していた。
2日間、気絶と悶絶を繰り返し高熱にうなされた。その間リカバリーガールとサナーレが治癒を施してくれたり、警察が訪ねてきたみたいだけど、何1つ覚えちゃいなかった。

近くの棚の上には、綺麗な形にカットされていたフルーツと、見慣れた字……お母さんの字が書かれた紙が僕に見えやすいように挟んであった。

思い出すのは、林間合宿前にクラスのみんなと一緒に買い物に行った日。あの日、僕の前に現れた死柄木を見て麗日さんが通報してくれたんだっけ。
その後、お母さんが迎えに来てくれて、すごく心配されて……。


「……洸汰君、無事かなぁ……」


天井をボーッと見ていた時、コンコンッとノック音が聞こえた。


「……あっ、緑谷!目覚めてんじゃん!」


上鳴君の声が聞こえ、首だけで扉の方を見ると沢山の人が入ってきた。……クラスのみんなだ。


「……迷惑かけたな、緑谷」

「う、うん……僕の方こそ。A組みんなで来てくれたの?」

「いや。耳郎君、葉隠君はヴィランのガスによって今だ意識が戻っていない。そして八百万君も頭を酷くやられ、ここに入院している。昨日丁度意識が戻ったそうだ。……だから、来ているのはその内3人を除いた……」

「15人だよ」

「爆豪と名前いねぇから」

「っ!?ちょ、轟!」


思い出すのはワープに消えていったかっちゃんと、継ぎ接ぎのヴィランに突き飛ばされ、別のワープへと消えていった名前ちゃん。

ボーッとしていた頭が、轟君の放った言葉によって動き出した。


「……オールマイトがさ、言ってたんだ。手の届かない場所には助けにいけないって。だから、手の届く範囲は必ず助け出すんだって」


僕は手の届く場所にいた
必ず助けなきゃいけなかった
僕の個性はそのための個性なんだ

視界が歪んでいく。
……相澤先生の言う通りになった

『お前の個性は一人を助けて木偶の坊になるだけ』


「……からだ、動かなかった……ッ!」


洸汰君を助けることに精一杯で、目の前にいる人を僕は……!


「___じゃあ、今度は助けよう」


え……?
切島君、今なんて……?


「実は俺と轟さ、昨日も来ててよ……」


昨日
切島君と轟君は僕の病室に行く前に、オールマイトと警察が八百万さんと何か話している事を聞いたという。
……その内容は、八百万さんが作った発信機をB組の子に協力してもらいヴィランに取り付けた、という内容だった。


「……つまり、その受信デバイスを八百万君に作って貰う、と……?」

「……っ」

「……だとしたら?」


八百万さんが作った受信機がヴィランに付いている
オールマイトに渡していたという受信デバイスがあれば、かっちゃんと名前ちゃんを助けに……!


「……オールマイトの仰る通りだ!プロに任せる案件だ!!俺達が出て良い舞台じゃないんだ、馬鹿者!!!」

「んなもん分かってるよ!!でもさ、何もできなかったんだ!ダチが狙われているって聞いてさ、何もできなかった!しなかった!!___ここで動けなかったら、俺はヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!!!」


こんなに感情的な切島君は初めて見た。
その様子を見るからに、本当に悔しいのだと分かる。


「切島、落ち着けよっ。ここ病院だぞ!こだわりは良いけど今回は……」

「飯田ちゃんが正しいわ……」

「飯田が……みんなが正しいよ……そんな事は分かってんだよ!でも!!」


切島君がこちらを振り返り、僕に手を差し伸べた。


「なあ緑谷! まだ手は届くんだよ・・・・・・・・・ !!助けに行けるんだよ!!!」


その言葉は希望の光が差し込んだような嬉しい言葉であり、甘い誘惑のような言葉でもあった。





2023/11/05


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