新宿のアサシンの真名ネタバレあり
***
時は流れ、10年後...
『姫、君に頼みたいことがあるんだ』
「はい、何でしょうか。お父様」
モニターから男性の声が聞こえた。
その前に立っているのは、姫と呼ばれた少女だ。
『君にある場所に潜入してほしいんだ』
「喜んで。それで、その場所とはどこです?」
『憎きヒーロー”オールマイト”の出身校である雄英高校だ』
「分かりました」
少女は男性の指示に嫌な顔を浮べることなく頷いた。
その会話を側で聞いていた青年……死柄木は少女の方を振り向いた。
「ヒーロー側に寝返る……何てことないようにな」
「何を言っているの、弔。私が寝返るような真似、すると思う?」
「念には念を、だよ」
「心配しないで。……私の帰る場所はここなんだから」
カウンター席に座る死柄木に近づき、少女は彼の頬を優しく撫でた。
その姿は慈愛に満ちていた。
「……分かったよ」
「ふふっ、良かった。納得してくれて」
「ですが、高校に入るには入試を受けなければなりません。その対策はおありで?」
「問題無いわ、黒霧。実技は勿論、学力もね」
少女は学校に通ったことはない。
なのに少女は入試に……それも、難関校と呼ばれている雄英の試験に何の対策もしないと言う。
「お父様の期待に応えるためならば、潜入なんて安いものよ」
少女はそれだけ言って部屋を出ていった。
彼女が向かった先は、少女に割り当てられた部屋。年頃の少女が暮らしているような内装ではなく、必要最低限の物しかその部屋にはなかった。
「燕青。いるかしら」
「おう、マスター。俺ならここにいるぜ」
少女の声に応じたのは、長い髪を一つに結っている青年だ。
燕青と呼ばれた青年は少女の目の前に現れた。……そう、何もない空間から突然現れたのだ。
「来年から貴方に頼り切りになると思うの。良いかしら」
「勿論。マスターに仕えるのが俺の全て。何でも頼ってくれ」
「ふふっ、ありがとう。それじゃあ、概要を説明するわ」
少女は青年に向けて言葉を綴った。
その内容は、要約すると「変装の為に貴方の力を貸してほしい」というものだった。
「さぁ、早速テストを行いましょう」
「よしきた」
青年が返事をした瞬間、少女の右腕に赤い模様のような刺青のようなものが現れた。それはどんどん輝きを増す。
「”我が身にその力を貸し与えよ……暗殺者”」
少女が詠唱を唱えた瞬間、青年は金色の光に包まれたと思えば姿を消した。
それと同時に少女の身体が金色の光に包まれ、姿が変わっていくではないか!
輝きが収まり、その場に現れたのは……青年『燕青』に似た人物だった。
容姿は少し幼く見えるも、身長は青年とほぼ変わらないように見える。そして、何よりも……性別が変わっているのだ。
彼女は女性だったはずだ。しかし、女性の特徴としてあげられる胸、身体のラインはなくなり、男性としての特徴が現れていた。
「……よし。燕青、この時の姿の名は『鳳山 碧(ほうやま あおい)』よ。覚えておいて」
『おう、マスター』
「……さて」
再び少女(?)の身体が光に包まれたと思えば、見覚えのある少女の姿に戻った。少し遅れて少女の隣に青年が現れた。
「ないとは言え、万が一個性が解除された時の事を考えて、髪を黒く染めておきましょう」
「え〜。俺、マスターの髪の色好きなんだけどなぁ」
「ありがとう、燕青。でもね、念には念を掛けないと。さっき弔にいわれてしまったからね」
「そっかぁ」
少女は部屋に設置されている洗面所へ足を進める。
近くに立てかけてあった髪染めスプレーを手に取り、迷う事なく髪に振りかけた。
2021/07/03
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