「今日も沢山食べたんだね」
男性の声に少女は顔を上げる。
少女の近くには何の怪我もなくその場でピクリとも動く気配のない人間。
「はい。個性の性質上、私は人の魂を食べる事で力が増します。これはお父様の為に必要な事ですから」
「そうかい、そうかい。……ありがとう、姫」
そう。
彼女の目の前に倒れている人は、今少女が男性に話した通り人の魂を食べたから動かなくなった…つまり、この少女が命を奪ったという事だ。
その発言に男性は咎める事はなく、むしろ少女を褒めた。
「……!お帰り、姫」
「ただいま、弔」
少女は入った部屋にいた少年……『死柄木弔』の言葉に返答した。
年齢は少女に近いように見える。
「お帰りなさい、姫」
「ただいま、黒霧」
少女に向かってお辞儀をした人物……『黒霧』にも丁寧に言葉を返した。
こうして見ると少女の立場は呼ばれ方から考えるに、かなり上という事だろうか。
「ねえねえ、今日は何人殺したの?」
「5人よ。まだ身体が慣れないみたいで、まだ5人が限界なの」
「大丈夫。身体が成長するにつれて食べられる人数も増えていくさ。今は気にせずとも段々と慣れていけば良い」
「……ありがとうございます、お父様」
お父様と呼ぶ人物に撫でられている少女はどこか嬉しそうで、年相応の表情を浮べている。しかし、その会話内容はとても幼い子供がやるような事ではない。
『続いて、速報です。最近巷で起こっているヒーロー殺害事件についてです。本日、5名のプロヒーローが無傷で亡くなっているのを発見されました。死体から推測されるに、犯人は同一人物と思われ……』
テレビから流れるニュース。
少女はそのニュースを視る事なく、部屋を後にした。
「よぉマスター。今日もご苦労なこった」
「ありがとう、セイバー」
少女は別室に入り、ベッドへと座る。部屋の内装を見るからに、少女専用の部屋と思われる。
その場所には少女一人しかいなかったはずなのに、何もない空間からは金髪碧色の少女が少女の隣に現れた。
「ふふっ、今日も綺麗ね」
「だから、俺を女扱いすんなって!!」
「あら、ごめんなさい?なら男の子として扱った方がいいかしら?」
「男扱いもするな!!!」
「うふふっ、冗談よ。あなたを女や男で括るのではなく、私のセイバーとして…… モードレッドとして扱わないといけないものね」
「ほんとに子供なのかよ、マスター。なんか大人と話してる気分だぜ」
「あら、子供だからといって舐めて貰っては困るわ。だって私は姫だもの。拝む者達を救い、導き、護らなければならない」
少女はセイバー…モードレッドと呼ばれた少女を見上げる。
その表情は常に微笑を浮かべており、どこか余裕を感じさせる。
「これは私達にとってはゴミであるヒーローを減らす事と同時に、私の食事も行える効率の良い事なの。この間違った社会を正すために、一緒に頑張りましょうね」
少女は金髪碧色の少女に向けて小さな手を差し出した。
幼く華奢な姿をしているのに、何故か少女からは大人の様な雰囲気が醸し出ていた。
2021/03/12
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