第5節「轟焦凍」



放課後


「ここが私が住んでる家だよ」

「でけぇ」

「あはは……まあ上がってよ」


目の前に見えるのはもう何年も見てきた自分が住む家だ。
西洋風であるからインパクト強いよね。未だに私もそう思う。

家を見て表情を一切変えずに一言感想を言った轟君に苦笑いしながら玄関のドアを開けた。


「お帰りなさいっ、おかあさん!」

「ただいま、アサシン」


飛びついてきた少女…ジャックを抱きしめ返す。
今日のお出迎えはジャックのようだ。
毎日のようにお出迎えがあるのだが、彼女はよく出迎えてくれる方だ。逆は誰なのかって?……家に数日間いない事があるギルかな。

ジャックは名前を呼んで貰えなかった事に不満なのか、ぷくっと頬を膨らませて私を見上げていたが、轟君の存在に気付き何故名前を呼んで貰えなかったのか察してくれた様だ。あとでうんと甘やかしてあげよう。


「お帰り名前……ってあら!焦凍君じゃない!いらっしゃい!」

「……お邪魔します」


ひょこっと廊下に顔を出したお母さんに、轟君はペコッと頭を下げた。
エプロンで手を拭きながら駆け寄ってくるお母さんを見て、何か作っていた所だったのかな?と、ふと考える。
一応轟君を家に呼ぶ事をメッセージアプリで伝えていたんだけど……あ、だから何か作ってたのかな?


「ねぇねぇ名前、もしかして2人はそういう関係なの?」

「そういう関係って?」

「それはもう、男女の関係よ!」

「ち、違うよ!?」

「ふふっ、別に隠さなくてもいいのに」


この表情、絶対に楽しんでる……。
現役女子高校生である私より女子高校生さがある母親って何だろう……。
轟君をずっと立たせておく訳にもいかないので、自分の部屋に連れて行く。
今日護衛として付き合ってくれたアーサーはどこに行ったのか、私の横を着いてきているのはジャックである。


「ごめんね〜、お母さんが」

「いや、大丈夫だ。……あんな顔してるんだな」


飲み物を持って自室に入る。
中で待たせていた轟君に一言声を掛けると、向こうは相変わらずの無表情でそう答えた。どうやらお母さんの顔を見るのは初めてらしい。じゃあお父さんの顔は知ってるって事かな。

ジャックと二人っきりだったけど特になんとも無かったみたいだ。というよりジャック、ちょっと懐いていない?


「普段顔は隠れているからね。しかも髪も隠れているからイメージしにくいでしょ?」

「まぁ。苗字は母親似なんだな」

「あー、やっぱりそう見える?」

「ああ」


ジュースをコップに注ぎながら、最初自分も思っていた事を轟君に返した。
びっくりするくらいに本当にそっくりなんだよね、私とお母さん。いや、びっくりしたんだけどね。

さて、何故轟君を家に連れてきたのか。
それは昼休みに唐突に言われた”私の事を知りたい発言”である。

彼の目を見て思ったんだ……これは誤魔化せないって。
だから彼に話すことにした。私の抱える秘密を、過去を。

でもその前に……。


「私の事を話す前に、轟君に聞いておきたい事があるの」

「聞きたい事?」


私の膝に頭を乗せ、腰に腕を回して寝転がっているジャックの頭を撫でながら轟君を真っ直ぐ見つめる。
この事実は轟君が知りたい”私の事情”を話す前に聞かなければならない。
私の問いに首を傾げた轟君のオッドアイをジッと見つめる。


「うん。……轟君は___前世って信じてる?」


前世
今現在のものではなく前の人生の事を指す言葉だ。
言葉だけなら誰でも聞いたことがある方だろう。
だけど私が聞いているのはこの言葉を知っているかではない。信じている・・・・・か、だ。


「前世、か」

「うん」

「……俺にはよくわからねぇ。苗字は信じているのか?」


まさか質問で返してくるとは。
……この質問をしている時点でなんとなく察してくれないかな。なんて、彼は意地悪で聞いている訳ではない、本心だ。
これだから天然は困る。


「その私が前世の記憶を持っている・・・・・・・・・・・って言ったら……信じる?」


轟君、君がオウム返しした質問は私にとって愚問なんだよ。
私の発言を耳にした轟君は段々と目を見開いてこちらを見つめた。


「……そうか。苗字は前世の記憶があるんだな」

「……うん。信じて、くれる?」


この話は両親しか知らない。
幼馴染みであるいーちゃんとかっちゃんも知らない、私の秘密。

左右違う色の瞳には私が映っている。……轟君の答えを待つ、私が。
轟君は一度瞳を閉じた後にこちらを見つめ返えした。


「……信じるも何も、俺はそういった話はよくわからねぇ。でも、俺には苗字が嘘をついているようには見えねぇ」

「……!」

「俺は信じる___苗字の言った事」


今度はこちらが目を見開く番だった。
前世の記憶がある、というような類いの話は信じて貰えない事が多い。
だから、こんなにもあっさりと信じてくれるなんて思わなくて。


「ありがとう……ありがとうっ、轟君……」


涙が零れそうになって俯くと、お腹に顔を埋めていたはずのジャックと目が合った。
ジャックは私の頬を流れた雫を黙って拭ってくれた。

……きっと、泣いてた事轟君にはバレていただろうなぁ。
それを分かって気付かないふりしてくれた彼の優しさが嬉しかった。





2021/07/25


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