novel3 | ナノ



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ディオは幼少期に奪われ続けていた人生を、ついに取り戻した。

代わりにきちんと、今まで奪ってきた物の精算をした。
ジョージには命を奪う毒では無く、薬を与えた。
ジョナサンに顔面を渾身の力で殴られて激しく殴り合いに発展し、その後吐き、ぶっ倒れ、担ぎ込まれた病院で再会したエリナには、唇を奪った謝罪をした。
ジョナサンにも謝罪をした。借りていた物は時計を含めて殆ど全て返した。
ジョースター家の当主の座もジョナサンにくれてやった。
ディオの入院がきっかけで再びエリナと出会う縁も与えた。

──そしてディオは、尊いものを得る事が出来た。
人生の伴侶、運命の女、幸運の女神、ディオだけの天使。

ディオは今までずっと、暗闇の荒野を自分で切り拓いてきた。
けれど、いつまで経っても、あと一歩先にありそうなそこへ、たどり着けなかった。
今までのやり方が無茶苦茶だった自覚はあった。正しさとはかけ離れていた。
罪も犯していた。だから本当の意味では辿り着けない事は、分かっていた。

──その最後の一押しを、彼女がしてくれた。
光の向こうから、手を、取ってくれた。
手を、ひいてくれたのは、リリアンだった。
彼女はディオを選んでくれた。招いてくれた。


「好きだよ」


涙が溢れた。
信じられなかった。
自分の想いに、同じ想いを返してくれるなんて。
不可能だと思っていた。諦めていた。

リリアンが逃げられないように手を回し続けたのはディオだ。
周りに交際していると思い込ませ、婚約まで勝手に決めた。
ジョージを使って繋ぎ止めて、弱らせてそこにつけ込んだ。
安心感を与えて依存させた。
リリアンがディオを大事な者だと認識するように仕向けていた。
それは恋でなくても良かった。家族としてなら愛してくれる事は彼女自身も明言していたし、それで及第点だと。
リリアンはディオを大切に思ってくれている。なくてはならない者だと思ってくれている。
頼られている。安心感を求めてくれている。それだけで。
そして彼女は流されて、諦めて、父ジョージの為に婚約を受け入れてくれた。

リリアンの恋心は、諦めていた。
ただ、身体は隅々まで奪わせて貰おうと思っていた。
快楽漬けにして、ディオ無しにはいられない身体にすれば、きっと、依存してくれる。
快楽の海に堕とし、交わる事しか考えられない程、その身体に芽吹いた淫猥な感覚を刺激する。
淫靡な生活を与え続け、触れればすぐにその蜜壺を濡らすような淫乱な身体に作り替える。
きっと一筋縄ではいかないだろうが、ディオはそこまでやるつもりだった。

親愛や恋心以外にも、人間はたくさんの感情を愛として抱く。
愛欲、性欲、情欲、肉欲、淫欲、独占欲、支配欲、征服欲──ディオはそれら全ての感情をリリアンに抱いていたが、リリアンに恋心を抱いて貰えないのなら、それら他の感情を抱かせてやろうと思っていた。
心は、後からついてくればと、思っていた。


「大好き」


なのに、リリアンはちゃんとディオの事を好きでいてくれたのだ。
“奪って”手にしたのではなく、“与え”られていた。

嬉し過ぎて涙が暫く止まらなかった。彼女の肩口に顔を埋めながら、歯を食い縛っていた。
気を抜くと嗚咽が溢れそうだった。
彼女が優しく頭を撫でてくれている。その感覚にまた涙が止まらなくなった。

人に頭を撫でて貰った事なんて、12年以上振りの事だった。
ディオは母親をどうしても思い出してしまった。
最期まで愚かであったが、それでもディオを愛していてくれた母を。

どんなに強い男でも、心には安らぎを求めるもの。
ディオはリリアンに安心感を与えていた筈なのに、いつのまにか自分の方がそれを与えられていた事に、ようやく気が付いた。
安心感を求めていたのは、自分もだったのだ。

心が通っている。
繋がっている。
リリアンからの愛を感じる。
暖かくて、尊くて、眩しくて。


「愛してるよ、ディオ」


暗闇に光が差し込むような、晴れやかな気分になった。
リリアンはディオを導いてくれた。

景色が変わる。
目の前がちかちかする。
狂っていた人生、本当の意味では愛されなかった人生が今、祝福された。

夢に見た、天国にいるかのような暮らし。
ディオは幸福の中に居た。光の中に居た。


「ああ…ッ俺も…リリアンを心の底から、愛している…!」


ディオはようやく、暗闇の荒野から抜け出す事ができたのだ。






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