novel3 | ナノ
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挨拶回りを終えて屋敷に帰宅すると、父はにこにこと機嫌が良さそうだった。
父の体調はとても良く、以前の元気さを取り戻しているようだった。
「そうだ、お前達の籍を入れておいたから、晴れて二人は夫婦だ。おめでとう」
「?????」
「流石ですお父さん!仕事がお早い!!」
父はハイになっていた。ディオもハイになった。
ディオは一度養子から外れて、ただのディオ・ブランドーに戻る予定だった。
けれど婚約者といえど、もう結婚は決まっているようなものだと考えていた父は、お役所手続きの複雑さを理由に、もう入れちゃっても良いんじゃないか?と思って勝手に入籍の方の手続きを進めてしまったのだという。
それなら一回で全ての手続きが終わるし、ディオがジョースターではない期間が短く済むし、父的にはリリアンとディオが早く結婚してくれた方が喜ばしかったようで一石二鳥どころか三鳥くらいあったようだ。
こうしてディオはリリアンの婿となり、ディオ・ブランドー・ジョースターの名前は変わらないままとなった。
それを知ったジョナサンは額に青筋を立てながらも笑顔で祝福してくれた。
喜ばしくもあり憎らしいとの事だった。
リリアンは父からの執着心を感じた。
というか、ジョースター家の男達全員から執着されていて、もう家を出る気は失せてしまった。
諦めたとも言う。
父は本当にとても元気になった。
この2、3年の事が嘘だったかのように、健康体となっていた。
だから、仕事の方も安定して、それの手伝いをしていたリリアンとディオとジョナサンに少し時間の余裕が出来ていた。
「そうだ、お前達の結婚式をしよう。
ハネムーンも忘れずにな。孫の顔が早く見たいものだ」
「お父様?!」
「分かりましたお父さん!すぐに式場と旅行先を決めましょう!!」
そうして、あっという間に汗と涙と雄叫びが聞こえる結婚式を終えて、リリアンはディオとハネムーンに行く事になっていた。
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場所はイタリアにした。まだ訪れた事が無かったので、有名な観光地を見てみたかった。
イタリア語に関しては、リリアンよりディオの方が得意だった。流暢に現地の人々と会話するディオに、流石だなと思った。
初日はローマを中心に各地を回った。
コロッセオ、トレビの泉、スペイン広場、真実の口、パンテオン神殿。
バチカン市国のサンピエトロ大聖堂、バチカン美術館の美しいらせん階段、キリストの変容。
システィーナ礼拝堂に描かれた天使や、父なる神。
特にミケランジェロの作品の最後の審判を、ディオは興味深そうに見ていた。やはり、彼のお母様の影響なのだろうか。
普段から神など全く信じていなさそうなディオが熱心に見つめるそれは、神の子が死者に裁きを行い、天国へ行く者と地獄に墜ちる者とを分ける様を描いた壁画だった。
そういえば、ディオという名前は、イタリア語では神という意味になる。
イギリスでも人名に使われる事は少なく、イタリアでは畏れ多くてほぼ名付けられる事はないのかもしれないその名称。
また、彼の父ダリオという名前はイタリア人系の響きをしている。
もしかしたら、ブランドーの家はイタリアのルーツがあるのかもしれない。
数日かけて、リリアンとディオはイタリアの各地を巡った。
ベネチアやフィレンツェ、ローマ。
途中に寄ったサン・フランチェスコ大聖堂で、ディオはまた宗教画を興味深そうに見ていた。
ジョット、チマーブエ、マルティーニなどの手になるフレスコ画が多数描かれたそこで、リリアンはずっとディオに手を握られていた。
リリアンはその横顔を、ずっと見ていた。
「…今回はイタリアの中心から北へ向かって観光出来たし、今度来る時は南部の方に行こうぜ」
「うん。ディオ、なんだかイタリアをすごく気に入ったみたいだね?」
「ああ…気に入った。また来よう」
「私も気に入ったよ。食べ物は美味しいし、景色は綺麗だし、天気は晴れてるし、全然曇ってない」
「イギリスは年中ずっと曇っているからな…晴れてる日があまりに少ないのが、国外に出るとよく分かる。
日照時間が少ないから鬱々としている人間が多いしな」
「フランスもスペインもだけど、町中の人達の表情とか結構違うよね。明るくて好き。…今度またフランス支店に顔をだしに行こうかな」
「俺も一緒に行く」
「…イタリアにも進出したいなー…なんちゃって…」
「支店なら許すが…まさか移住は考えてないよなァ…?お父さんが悲しむぜ?」
「…許してくれなさそうだよね…ジョースター家の隣に私とディオが住む別邸作りの計画もされてたし…」
「…ふん、まあ、どうしてもお前が海外に住んでみたいと思うなら、当然俺も一緒にだ。それなら許す。」
「ほ、ほんと?移住とまでは考えてはいないんだけど…ワンシーズンくらいは暮らしてみないと分からない事とかあるし、その国で求められている物とか、空気感とかも知りたいから、やっぱり長期的に過ごしてみてから新しい事業とか考えたいんだよね。
海外に居るとすごくインスピレーションが次々と湧き上がって…!…あ…その…父さんには内緒で…」
「…そのプランは、勿論俺と一緒、という最低限の定義はされているか?いるよな?されて居ないならお前を監禁して一日中ぶち犯して仕事なんて出来ないくらいに孕ませ続けて出産させ続けるからな。」
「…怖すぎる…え?冗談…だよね??」
「前にも一度言ったが?」
「監禁云々は聞いたような気がするけどそれ以外は初耳なんですが…?」
「で?」
「も、勿論ディオと一緒にだよ…結婚してるし…前はその…結婚しても家にあまり帰らないかもって言ったけど、今はその…貴方と居る時間を大切にしたいと、ちゃんと思ってるから」
「……はは、そうか…そうだったか…嬉しいな…」
「ディオ?」
リリアンはディオに抱きしめられていた。
強く強く。けれど決して痛くはなく。
外での触れ合いに、リリアンは少し羞恥心を抱いた。
けれど、観光地という事もあって、周りにも似たようなアベックは多い。
気にしている自分の方がなんだかおかしい気がして、リリアンは雰囲気に流される事にした。
温かな腕の中で暫く閉じ込められていた。やがて身体が少し離されると、ディオの顔が見えた。
彼は、何かを堪えるようにして笑っていた。少し、その眼尻が赤くなっている。
すっと、唇が寄せられる。
イギリスではこんな往来でキスするなど、紳士淑女的にはよろしくない。
恥ずかしくて拒否していただろうが、外国の温かな空気が、リリアンの思考を溶かしていた。
まあいいや、とディオからの熱い口付けに応えて、リリアンは自分からディオの身体をしっかりと抱きしめ返した。
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