novel3 | ナノ



22

ディオはジョナサンに焼き殺された。ジョースター家の守護神のように玄関に在った慈愛の女神像に貫かれ、何度も再生しては焼かれ続けた。
しかし、吸血鬼の再生能力はそれに勝った。ほとんど再起不能だったが、ディオはまた蘇る事が出来たのだ。
全身が焼け爛れて、もはや人であった時の外見など残っていなかったが、それでも、ワンチェンの血を頂く事によって生き長らえた。

そして陽が落ちていたタイミングで、ディオはワンチェンと共にロンドンの方へ向かった。
ジョースター邸のある片田舎では、夜に人が出歩く事は稀で、とても目立つ。ならば夜の街が盛んであり、怪しげな風体の者が多いスラムに身を隠そうとした。

不死身の回復力を持つ吸血鬼といえど、瀕死の状態から元に戻るまでにはそれなりの時間とそれなりの生命を必要とした。
そこでディオは、回復ついでに実験を開始した。人が何人消えようと特に問題にならない貧民街はやはり都合が良い。
吸血鬼にどれだけの能力があるのかを知る為に、ディオは実験を繰り返した。
吸血、ゾンビ作成、超再生、超パワー、そして、催眠。
なるべく人が死んでいないように見せかける為には、ゾンビ化や催眠能力はもってこいの力だった。


「気に入ったぞ闇のジャック。このディオに服従するのだ」


そこで巷を騒がせていたジャック・ザ・リッパーを手に出来たのはディオにとってラッキーだった。
大抵の人間は心に善のタガがある。ディオの心にすらそれがあった。
人間を辞めなければ捨てられなかったそのタガが、人間であるにも関わらず存在しない悪のエリートのような殺人鬼。
それを配下にした時、他の屍人よりも、それこそ先にゾンビにしたワンチェンよりも強いゾンビとなった。
凶悪な人間の方が、よりよい屍人になる。それに気が付いたディオは、より効率的に悪人を集められる場所を探した。
そしてちょうど良い場所として見つけたのが、岩奥の町、ウィンドナイツロットだった。
三方を山に囲まれた天然の要塞的地形を利用して、そこには刑務所が建てられていた。埋葬された囚人達の墓場もあったので、強力な部下が作れた。

ディオはその場に城があったのも気に入った。リリアンを招くのに相応しい場所だと思った。
療養所としてそこに住み着き、しもべを増やし、若い女の生き血をすすりつつ、更に様々な人体実験を行った。
人間と犬を合体させたり、ゾンビと合わせてみたり、死体に蛇を仕込んだり。
そして、攫ってきた若い女と何度かセックスもしてみた。性欲処理も兼ねた人間の女の身体の耐久テストだった。


「──…ああ、また死んだか」

「ディオ様ァ!その女頂いても??」

「ああ、食って良いぞ、ジャック」


ディオの吸血鬼としてのパワーは凄まじく、加減をしなければ手が掠っただけで人体は粉々になる。
破壊に特化したこの力を、ディオはコントロールしなければならなかった。人間を壊さないように、殺さないように。
それはリリアンの為だった。

ディオは様々な実験をしていたが、人間に石仮面を被せる事だけはしていなかった。
仮面を被って吸血鬼となるのはこの自分と、その伴侶となるリリアンだけにしようと考えていた。
しかし、リリアンを吸血鬼化させるのはまだ時期尚早。自分が吸血鬼化したのだって、追い詰められた苦し紛れだったからだ。

石仮面を被り、吸血鬼になれるのは確定している。けれども、どれだけそれ以前の意識が残っているかは、人それぞれだ。
港町で偶発的に行った実験対象の男は吸血鬼化こそしたものの、後に知るゾンビと大して変わらない食欲と殺戮の権化だった。
正気と理性を失っていたと言っても差し支えなく、人らしさは微塵も残っていないように思えた。

だから、ジョースター家で仮面を被ったのはほぼ賭けだった。自我を失って心身共に化け物になるか、正気を残せたままに吸血鬼化するか。
あの場にリリアンも居たが、彼女と離れるくらいならいっそ化け物になって彼女を殺し、そしてその後に自分も朝日に焼かれて死ねば心中出来るのではとすら思っていた。
しかし、ディオは正気を残したままの吸血鬼化に成功した。そして本能で身体の使い方を理解した。
殺した警官をゾンビ化させる事が出来たのもその為だ。ならば、もう彼女と共に心中する必要はない。

リリアンを手に入れられる。正気を保ったまま、ディオは人間を超越した吸血鬼として、彼女を手に入れる事ができる。
その後に彼女を吸血鬼とする事も、ゾンビにする事も出来る。否、やはりゾンビにはしない。彼女には自分と同じ吸血鬼になるのが相応しい。
きっとリリアンならば、この自分と似た彼女ならば、正気を保ったまま吸血鬼にだってなれる筈だ。
そして、未来永劫を共に過ごせる筈だ。

だが、ディオは、人外として末永く生きるのならば、地盤作りは大切だと考えていた。
まずはこの町を支配し、ゾンビの軍隊を作り上げ、隣町、そしてロンドン、更にイギリス全土を屍人の国と化す。
人の住める土地ではない地獄にし、吸血鬼にとっての楽園を築き上げる。そうして安全性を確保してからリリアンを吸血鬼にするつもりだった。

だからそれまでは、人間のままのリリアンを、吸血鬼のこの身で可愛がってやらねばならない。ディオはそう考えていた。
幸いにも、生殖機能は残っていたからだ。
回復中とはいえ自分のパワーは人体にどれほどの影響を与えるのか、どの程度の力加減をすれば相手に傷が付かないか、肉を抉らないか、骨を折らないで済むか。
ディオは様々な女で試した。

相変わらず適当な女との性行為には大した興奮は出来なかった。ディオは女達を人間オナホのようにしか扱えなかった。
それでも性的快感を得た時には力加減が難しくなり、最初のうちは下半身ごと内側から身体を破壊してしまったり、腕や脚をもいでしまったりしていた。
ディオはそれらをジャックに食わせた。
ようやくセックス中の力加減をマスター出来たディオは、女達の生き血で火傷を治す事に専念した。


「ンン…、次第次第に力が蘇ってきた。さて、ではそろそろ、我が伴侶を迎えに行かねばな」


ワンチェンとジャック以外の偵察ゾンビに探らせていたジョースター邸やリリアンの様子。
相変わらず忙しく日々を過ごしている彼女は、ジョージという保護者を失ってますます努力に励み、仕事に打ち込んでいるようだった。
気高く、美しく──そして健気で、憐れで、可哀想だ。
人間を辞めたディオは、自身が人間の頃には抱かなかったであろう印象を彼女に抱いていた。
──それが彼女に対する侮辱だと気付けない程に、考え方が変わってしまっている自分自身に、ディオは気付いていなかった。

──人間が作ったルール、その枠組みの中でちまちまと健気にも生きてる彼女を、その全てから解放してやろう。
悩みをなくしてやろう。安心させてやろう。閉じ込めて、愛でて、ただ愛だけを注いで、この腕の中で永遠の安息を与えてやろう──。



──ああ、見つけた。



「やあ、リリアン、元気にしていたかい?」

「ディ、オ…」


屋敷で着ていたネグリジェではなく、簡素で質素な白いワンピースを着ているリリアン。
そんな彼女が、月明かりに照らされてとても美しかった。
ディオはここにくるまでに殺した宿の住人とリリアンお付きのメイド達の血を払い、舌舐めずりをして、愛しい女に近づいた。









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