爆豪くんの内気な双子の妹 | ナノ


▽ 気になる轟くん


「爆豪」

あのB組の物間がそんな優しい声で名を呼ぶ人間など、轟は一人しか知らなかった。

「物間くん、なあに?」

俺と一緒に話していたところから教室のドアの方へ向かう憂の背中を見る。憂の兄の爆豪勝己と同じ髪色で肩まで伸びた髪が揺れていた。

「あのさ、昨日…」
「うん?」

近づいてきた憂に物間は少しかがみ、憂は顔を寄せる。その動作に思わずびくりと肩を揺らしてしまった。俺は、今何を考えていた?その二人の様子に釘付けになる。物間は何か憂に耳打ちして、憂は楽しそうに笑っていた。なぜか安堵の息を吐く。

「気になるの?」
「葉隠」

ふと隣にいた女子の存在を思い出す。先ほどまで三人で話していたのに、憂がいなくなったことによりその存在をすっかり忘れてしまっていた。

「気になる…のかもしれねえ」
「ふふん、なんでだろうねえ」

にやにやと笑うような仕草をした葉隠に首を傾げる。二人の関係が気になるのは普通のことではないのだろうか。A組のことをよく思っていない筆頭の物間が唯一仲良くしているのが憂なのだ。でも先ほど、自分は何を考えていた?あのまま二人が顔を寄せてキスするかと思ってしまったのだ。学校だから?人目があるから?二人がそうするのが気になるのか?ぐるぐると思考が巡る、その時葉隠がけらけらと笑った。

「轟くんも結構鈍感なんだね!」
「そうなのか…」

その言葉に幾分か心を傷付けられながらぼんやりしていると、憂が戻ってくるのが見えた。その向こうで物間が意地の悪そうな顔をしてこちらを一瞥して帰っていくのが見えた。

「ただいま」
「おかえり。なんの話してたのー?」
「ふふっ、秘密だよ」

そうやって笑う憂にずくりと庇護欲が湧いてくるのが分かった。妹という存在を轟は知らなかったが、こういうものなのだろうと思っていた。

「秘密ってなんだよ」
「物間くんの趣味の話だから…誰にも話さないでって言われてるの」

誰にも聞かれてたくないような内容を話すのかと思った瞬間にまた胸の内に変な感情が浮かんでくるのが感じた。

「別に…いいけど」
「どうしたの?変なショートくん」

くすくすと笑う憂に轟は素直に可愛いと思う。憂は友人で妹のような存在だ。ただ、少しだけ俺のものだけであって欲しいと独占欲が湧いて出たのが分かった。それを認識した瞬間、轟の手は憂の頬に触れていた。

「…え?」
「…まつげが、」

ついていたとそういえば憂は恥ずかしそうに慌ててありがとうと礼を言った。もちろんまつげなどついていない。ただ、物間があれだけ近づいた顔に触れたい。そう思ってしまったのだ。

「ショートくん」
「憂」

はにかむように微笑む憂に轟もつられて優しく微笑む。それを見た葉隠は一人こっそりと二人を見守り微笑むのだった。

「もうすぐ予鈴が鳴るぞ!席に着きたまえ!」
「あ、じゃあまた後で。ショートくん」

葉隠と共に席に向かう憂の背中を見る。小さくてか弱くみえる背中。轟はそんな背中が意外と強いことを知っていた。

「憂…」

ぽつりと名を呼ぶ。その声は誰にも届かずに空に消えた。その名の響きに愛おしさすら感じているのに、憂に対する感情がなんなのか、この時の轟はまだ知らなかった。


prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -