Girasol | ナノ

 03

あの日から10日あまり。
ウォルロ村の守護天使ルナ像を、ウォルロ村の守護天使ルナ本人が見上げていた。
全身の痛みはすっかり引いていて、なんの支障もなく歩けるほどに回復している。
天使像はイザヤールが守護天使だった頃から変わらず、イザヤールにもルナにも似ていない。
イザヤールは何か嫌な思い出でもあるのかその像に近付く事でさえ滅多に無かったのだが、ルナはその像が好きだった。
見た事も無いほど立派な翼も、細かく削られて作られた本物ならばとても綺麗なのであろう髪も、男にも女にも見える美しい顔立ちも、いかにも天使らしい慈愛に満ちた微笑みも。
その全てが好きだった。
天使界の書物曰く、過去で最も優れていた天使がモデルなのだと言う。
いつかこの天使のようになるのがルナの夢なのだが、今のところ翼も失い天使界へ戻る事さえも困難を極めているのでそれは不可能な事に思えた。
クリスがルナに渡した天使のソーマを飲めば幾分か力は取り戻せるのであろうが、回復と再生はまた別のものなので翼を元通りににする事は出来ない。
ルナが天使界へ戻る手段はたった2つしかない。1つは他の天使に天使界まで連れて行って貰うかもしくは天の箱舟に乗せて貰うか。――天の箱舟はあの光によって落とされたのだから前者の方が可能性としては高いだろう。
しかしながら、それにしても妙だった。あれだけの強い風が吹いたのだ。ルナ以外にも何人もの天使が地上に飛ばされただろう。何人もが行方不明になったのであれば天使界に残った天使たちが地上に捜索に来てもおかしくない。そうならば既に天使の姿を見ても良いほどの時間は経っているというのに一向に見かけないのだ。

(それが出来ないほどの人数が飛ばされてしまったのかしら?それとも――)

それとも、また別の何かに妨害されているのか。
一度推測すると悪い方へ、悪い方へと思考がずれてしまう。
考え出したらきりがない。

(ううん。きっと運悪くこちらには来ていないだけだわ。)

ルナはそんな事を想像しても意味がないと思い直す。
今は来なくともきっと、イザヤールが来るだろう。そう信じる事にした。

「うん?誰かと思ったらこの前の大地震のどさくさで村に転がり込んだルナじゃねえか!」

突然後ろから声をかけられ、ルナは振り返った。
そこにいたのはやはりと言うべきか、何と言うべきかニードだった。
相変わらず隣りには取り巻きの青年がいる。

「お前こんな所で何ボ〜ッとしてやがんだ!?
は〜リッカってば何でこんな得体の知れないヤツの面倒見てるんだ?ここに来た経緯もおかしいしきてる服はヘンテコだしどう考えても怪しいだろ?」

「きっとあれッスよ。こいつの名前が守護天使と同じだからそれで気に入ってるんですよ。」

「これは民族衣装だし、ルナって名前自体珍しくないと思うんだけど…?」

2人の言葉にルナは小さく反論した。
服が変だと言われても何千年、何万年も昔からこの服で、人間と接さずにずっと天使界の中にいて事務仕事ばかりをしている天使の中には「人間の服って変わってるわよね。」などと言う者もいる。
名前も、天使や人間にも同じ人がいる。
同性だけでは無く、滅多にない事ではあるのだが男にも使われることのある、ありふれた平凡な名前なのだ。
ルナがこの村の守護天使であるから名前が一緒であることが当たり前だが、人間の中にはその地域の守護天使の名を我が子につけることもあるわけで。
ルナがこの村の守護天使では無かったとしても名前が偶然同じであることは確率は低くとも十分に有り得る事なのだ。

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