Girasol | ナノ

 02





「クリスさんっあの子は大丈夫!?」

クリスが1階へ降りるとリッカが心配そうな顔をしてルナの容態を尋ねた。

「大丈夫。今は疲れて眠ってる。」

「そう…良かった。」

クリスの返答にリッカは肩をなで下ろした。
クリスはルナも目を覚ました事だし、一旦家に帰ろうとした。が。

「あの子なんて言う名前なのか言ってた?後何であんな事になっちゃったのとか。」

リッカに呼び止められてしまった。
どう答えれば言いのだろう。
名前は別に良いのだが、問題はどうしてこのようになったのかだ。
天使の存在は自分のように見える人(と言っても自分以外にそういったものが見える人は知らないのだが。)以外にとってはおとぎ話のようなものなのだ。
そうだと言うのに「ルナはこの村の守護天使で何らかの攻撃を受けて翼も頭の光の輪も失って空から落ちてきました――」などと言えば言えば高熱が出ているのではないか、とかどこかで頭を強く打ったのではないか、と精神や脳の状態が疑われるだろう。
かと言って何も聞いて無いから本人から聞いてくれと言えばルナは馬鹿正直にちゃんと全てを話すのだろう。

「えーっと、あの子はルナって名前で…。」

それだけ言って吃ってしまう。どう説明すべきか。

(…まぁその時はその時か。)

クリスは最早やけくそだった。
なるべく顔には出さないように焦りながらルナの事を捏造する。

ルナは元々故郷の長の命で旅をしていた。ある日、故郷へ帰ることになるが、故郷は特殊な場所にあり、とある方法でないと帰る事はできない。ルナはその方法をと事情で行えなくなり、他の方法を探すべく世界中を巡った。この間の大地震の時はこの村の滝の上流におり、地震に驚いて転落してしまった。

我ながら無茶苦茶だ、とクリスは思った。
自分の村の神父(兼医者)とは言えどもこんな怪しい事を言われて信じる人がいるのだろうか?――いいや、普通は信じないだろう。

だが、クリスの心配は杞憂に終わった。

「そう。そんな事があったんだ…。ルナは大変だったのね。」

リッカが目元にうっすらと涙を浮かべて呟く。
嘘を吐いたのは紛れも無く自分なのだが、クリスは罪悪感が込み上げ、こんな事を疑いもせずに信じるとは大丈夫なのか?とも思った。
そこがリッカの良いところではあるのだが。


*


「――とまあ、色々と捏造しておいた。ゴメン。」

「何でクリスが謝るの?」

私の方がごめんね。とルナが返す。
あれからルナが目を覚ましたのは次の日の朝だった。
体中の痛みはまだ残っているものの、無理をすれば歩ける程には引いていた。
クリスはルナの容態を見て包帯を巻き直す。

包帯に包まれていない肌が幾分か増えた。

「翼と光輪は失っても傷の治りは早いね。後4日程で元通り動けるはずだ。」

「本当に?良かった。」

余った包帯等を片付けながらクリスが言うとルナは嬉しそうに笑った。
こんな異常事態にあっているのだから、もう少し不安がったりしても良いのだが、自分が守護する者の前では弱さを見せようとしないのか、もしくはこれが地なのかルナは弱音をはかなかった。はこうとはしなかった。

「それじゃあリッカを呼んで来る。――他にリッカに聞かれたくない話はある?」

「ううん。無いよ。」

「了解。」

クリスが部屋を出て行った後、ルナは窓越しに空を見上げる。
空はどこまでも澄んでいて、つい数日前に天使界を襲った禍々しい気など微塵も感じられなかった。

(私は、ちゃんとあそこに戻れるのかな――戻れるよね?)

ルナは無意識のうちにペンダントを握り締める。
アルテミスとルナが互いに師のもとにつく事が決まった日に、天使界に伝わる一種の呪いに基づき羽を1枚ずつ抜き取りお守りとしたものだ。
双子が互いの羽を交換し、身に着けていると己が最大の危機と直面するとたった一度だけ助けてくれる。そんな言い伝え。
ルナから見ればこの数日の事は今までにはない参事だった。それでも転機が訪れないのはそれが本当にただの伝承なのか。――または、更なる悲劇がルナを待ち受けているのか。
それは神のみぞしる。

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