Girasol | ナノ

 02


世界樹へと向かう階段はとてつもなく長い。その長い長い階段を上ると優しい光に包まれた世界樹とこの天使界の長老であるオムイ、それにイザヤールの背中が見えた。どうやらイザヤールはオムイに声をかけ、すぐに世界樹へ向かったらしい。話し声も聞こえるためオムイへの話は今しているのだろう。
ルナは階段を完全に上り終える前に一旦立ち止まり、深呼吸をしてから、階段を上りきる。

「オムイ様、師匠。ウォルロ村の守護天使ルナ、ただ今参りました。」

ルナが2人に声をかけると2人は会話を中断し、やおら振り返った。

「おお!丁度良いところに来たな!ウォルロ村の守護天使ルナよ。」

イザヤールが言った後、オムイがそばに来るように言い、ルナは怖々と2人の間に立った。
改めて世界樹を見ると、やはり優しげな光に包まれて輝いていた。優しい、と感じるがその光は強い。

「見よ。この世界樹を……。星のオーラの力が満ちて今にも溢れ出しそうだ。」

「ふぉっふぉっふぉ。後ほんの少しの星のオーラで世界樹は実を結ぶはずじゃ。」

女神の果実、点の箱舟、永遠の救い。全ての天使はそれこそ気の遠くなる程昔から、この日のために人間に尽くして来た。
しかし、それも今日この時まで。天使達の努力が報われる瞬間が訪れるのだ。
その瞬間に立ち会えるなど名誉どころの話では無い。
ぶるり、とルナの体が小さく震える。

「ルナよ。お前の持つ星のオーラを世界樹に捧げるのだ。オムイ様と私の予想が正しければいよいよ世界樹が実を結ぶだろう。」

「――はい。」

イザヤールに軽く背中を押され、ルナは世界樹へ進んだ。
緊張のあまり異様に喉が渇き、足が震え、体中が心臓になってしまったのではないかと思うほどドキドキする。ルナはしっかりと世界樹のそばに立ち、全ての星のオーラを捧げた。
すると世界樹はこれまでとは比にならないほど強く、優しい光に包まれた。
そして一部がキラキラと輝いたと思うと、そこに黄金に輝く果実が現われた。
1つや2つどころでは無く、幾つもだ。恐らくこれが女神の果実なのだろう。
そうなのだとすれば、間も無く天の箱舟が現れるはずだ。
ルナ達が辺りを見渡すと、ウォルロ村でもルナとイザヤールが見た黄金の機関車、天の箱舟が汽笛を鳴らして天使界へと向かっているのが見えた。

「全て言い伝えのとおりじゃ!」

オムイが感激して両目に涙を浮かべながら天の箱舟へ手を伸ばす。
天の箱舟は全ての天使達にその存在を知らせるためか、もったいぶるかのように天使界を一周して世界樹のある最上階に停車しようとした。が――

「…っ!?」

突然紫の禍々しい気を孕んだ光が地上から伸び、天の箱舟に直撃した。
天の箱舟は哀れにもバラバラになり、地上へと墜ちて行く。
天使達が何が起こったか理解するより先に同じ光が何本も天使界を襲った。
ルナ達は慌ててしゃがみこみ、世界樹の根につかまる。しかし光が産む風は非常に強く、非力なルナはしがみつくのにやっとだった。
だが、光の数が増えるにつれ風は勢力を増し、ルナの体が持ち上がる。

「こ、これはどうしたことじゃ!?儂らは騙されていたのか……っ!?」

オムイの言葉にイザヤールは顔をうつむかせる。
一際強い光が天使界を襲った。
遂にルナの右手が世界樹の根から離れる。これでルナを支えるのは左手のみだ。このままでは風に吹き飛ばされるのは時間の問題だ。

「ルナ!」

「し、しょお…」

イザヤールがルナに手を伸ばす。ルナも掴まろうとして手を伸ばした。
後少し、後少しで2人の手が届く。
だが追い討ちをかけるかのように更なる強風がルナを襲った。
イザヤールの手が空を掴む。
ルナの左手は世界樹から離れ、体は完全に宙に浮き、直ぐに天使界とは離れた場所へと飛ばされて行く。

「ルナー!」

間際、ルナが何かを呟いたが。イザヤールの耳には届かなかった。
それと同様にイザヤールの声はルナの耳に届かなかった。










「師匠、ありがとうございます。大好きです。」

遠くなる故郷と抜けてゆく己の翼を眺めながらルナは涙を堪えたような笑顔で呟き、静かに瞳を閉じた。

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