遠回しな恋を 2 | ナノ


遠回しな恋を 2




「こ、混浴ですって?!」
「ちょ、待て、殴るな、俺も知らなかったんだって!」
 その可能性を考えてなかったわけじゃないけど!説明してくれなかったんだってあの店員!いやマジで!慌てて事実を述べた銀時であったが、妙の機嫌はすぐには直りそうになかった。しかしその原因は、混浴ではない。問題は、部屋に案内されてすぐに起きたのだ。
 とても意外な気はしたが、妙は『恋人同士、泊まりがけの温泉旅行』の意味をきちんと理解していたようだ。部屋に並んだ布団がぴったりとくっついていても、驚くどころか恥ずかしそうに頬を染めた。それはつまり、その展開も含めて今回の旅行を了承してくれたというわけで。職業柄、そういった話に疎いわけではないとわかってはいたけれど、そういうことにはお堅い彼女のことだ。理解していたら、来ないと思ったのに。
「夕食まで、まだ少し時間がありますね……先に温泉入ります?」
 布団の上で正座をしながら、妙は彼を見上げ尋ねた。その顔がまだ少し紅いのがなんだか可笑しくて、銀時は思わず笑みを零す。
「それは下手なりのお誘いですか?オネーサン」
「え、あ……」
 あっという間に背後に回った彼の腕が、妙の腰に回される。高い位置で結わえられた髪。それによって露になっているうなじに、キスが一つ落とされ、ぴくん、と肩が揺れた。
 その反応に気をよくした銀時は、腰に回していた腕を挙げ、着物の襟に手をかける。肩越しに覗き込むようにして中を見た彼の動きが、思わず止まってしまった。



「……」
「……」
「……っ、どうせまな板みたいな胸した女ですよっ!」
「うぐぇ!」
 覗き込んでいた彼の顔を裏拳で仕留め、妙は着物の襟を整える。いやいやそういうこと思ってたわけじゃないからね!などと慌てて弁解しても無駄である。ぴったりと寄せられていたはずの布団と布団の間には隙間が作られ、食事までの間は一言も口を聞いてもらえなかった。
(やっべー……)
 もちろん、食事の間も会話が弾むわけはなく。「こ、これ美味いな……」「……そうですね」 そんな一言二言を交わした程度である。こんなとこまで来て何してんだ、俺。後悔しても遅いとわかっていても、せずにはいられなかった。せっかく、ここまでスムーズにやってこれたのに。
 どちらも、仲直りのタイミングが掴めずにいるだけなのだ。せっかくの旅行で仲が深まるどころか気まずくなって終わるなんて、とは思っていても、意地っ張りな二人である。そもそも付き合うまでに時間がかかったのも、なかなか素直になれなかったからという理由がないわけではない。今だってこうして、ずるずると時間を無駄に過ごしているわけで。
 先に堪えきれなくなったのは、銀時だった。あーとかうーとか変な声を出してうなったあと、かろうじて「……風呂行くか」とだけ告げた。それにこくりと頷いた妙を見て、温泉入ってちょっと落ち着けばなんとか……と思った矢先、目に止まったのが『混浴』の二文字なのである。




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