遠回しな恋を 3 誰かが入ってきた音がして、妙は首の辺りまで湯に浸かった。ちゃぷん……と響いた水音に、思わず胸元のタオルを引き上げる。気配は妙のすぐ傍まで近寄り、背中越しにその人物が腰をおろしたのがわかった。振り向かなくてもわかる。銀時だ。 「……」 「……」 わかってはいたものの、気まずい空気は相変わらずだ。相手が何事もなかったかのように振る舞えばそれはそれでむっとするであろう自分のことを考えると、めんどくさい性格だと思わずにはいられない。……彼にも、そう思われてはいないだろうか。不安に思うのなら、もう少しだけ素直になればいい。変な意地なんて張らなければいい。わかってはいてもそれは簡単なことではなく、どうしようという焦りばかりが生まれる。 そんな妙の背中に、心地よい重みがかかった。湯であたたまった熱い肌同士が触れあう。背中越しに伝わるその熱に、とくんとくんと胸が高鳴りを覚えた。何がしたいのか、なんて考える必要はなく、身体が自然と安心感に包まれる。 これはきっと、銀時なりの謝罪なのだろう。そう思った妙は、自分も身体の力を抜く。いつの間にか詰めていた息を吐き、ゆっくりと自身も彼に背中を預けた。 「銀さん」 「んー?」 「……ありがとうございます」 福引、当ててくれて。誘ってくれて。それから、謝ってくれて。 口にはしないけれど、きっと伝わったのであろう銀時から、短く返事が返ってくる。素直じゃないのは自分だけじゃない。彼だって同じだ。 (だから、きっと大丈夫) 不安に思う必要はない。今背中に凭れているように、安心して心を預ければいい。ただ、それだけのこと。 →Next →back |