君は知っているだろうか | ナノ


君は知っているだろうか 1




 宇宙へ行くことが唐突に決まった。何日滞在するかはわからないが、長期になる予感はした。どんなに地球に対する愛着が湧いても、消えなかったえいりあんはんたーの夢。今回の帰省が、その一歩になることがわかっている以上、神楽は一切ごねたりしなかった。ただ一つ、「あと一週間待って」という条件以外は。
 銀時と新八にはすぐ報告した。素直に表情を曇らせた新八と、顔色一つ変えない銀時の反応は対称的ではあったけれど、二人とも寂しいと思っていることは自惚れではないはずだ。それがわかるから余計に寂しくなって、少しだけ泣きそうになってしまったことを、二人はきっと気付いていた。だからこそそれを無視する。「あと一週間、こっちで何食べたい?」という新八の一言をきっかけに、ようやくいつもどおりの空気が戻った。できるだけ悲しくならないようにいつもどおりでいようとしてくれているのに、食卓には好物ばかりが並んでいて、やっぱり悲しくなってしまったと言ったら、それは贅沢なのだろうか。
 それから三日が経った頃、神楽が宇宙へ行くという話はほとんどの人に知れ渡っていた。妙には新八から話があったし、お登勢には銀時から話してあったようだ。寂しそうな笑顔を浮かべながら、それでも「いってらっしゃい」と言ってくれる人々に囲まれて、少しだけ心があたたかくなる。何ヶ月経っても何年経っても、きっと「おかえりなさい」と言ってくれるのだと、万事屋に帰ってきてもいいのだと、そう思えたから。
 その日の夜、銀時は出かけており、万事屋には新八と神楽だけがいた。一応、恋人という関係である二人に気を遣ったのか、自らも誰かの元へ向かっただけなのかはわからないが。宇宙へ行くことが決まってから二人きりで過ごすのは初めてで、なんとなく沈黙が気まずい。ソファで隣同士並んで、肩が触れるくらい近くて。二人きりのときだけ許されるこの距離が、今は少しだけつらかった。
「……おまえ、この先どうするつもりアルか?」
「どうするも何も……え、なに、もしかして別れ話?!」
「どうしたいか聞いてるだけアル」
「……」
「聞かせてヨ、新八。おまえの性格考えたら、三日間何も考えてなかったなんてことあるはずないネ」
 この三日間は、彼に与えた猶予。二人の将来について冷静になるための期間。
「……僕は……」
 決定権は新八にある。いつまでかもわからないのに、待っててなんて言う権利はない。だから、何て言われようとも受け入れるしかないのだ。待つ権利も、離れる権利も、持っているのは新八だから。
「……僕は、待ちたい」
「新八……」
「神楽ちゃんが戻ってくる日を、ここで待ちたい」
 待っててもいい?万事屋としても、恋人としても。
「……約束だからナ。浮気したら許さないアル」
 新八の返事に、心からほっとした。思っていた以上に別れたくなかったのだと、今更ながら気付かされた。かく言う新八も、言葉にしてからほっとしたようで、ようやくぎこちなさの取れた笑みを浮かべてくれた。神楽の小さな手を取って、さらりと指を絡める。
「一つだけ、お願いがあるんだけど」
「な、なにアルか?」
 真剣な瞳と声、そして繋いだ手にドキリとして、神楽は少しだけどもる。こういう恋人らしい展開は苦手だ。
「僕、まだちゃんと好きって言ってもらってない気がする」
「……っ!」
 新八は”気がする”と控えめな表現をしたが、それは事実だった。もちろん、神楽もわかっていた。言おうとしたことも、言いたいと思ったことも、もちろんある。それでも言えなかったのは、単純に恥ずかしいからだ。眼鏡の奥のまっすぐな瞳を見る度に、目を逸らしてしまう。改めてそんな言葉を発するなんて、できるわけがない。
「実は、姉上にも言われたんだ。そういうのはちゃんと言葉にしてもらった方がいいって」
「……」
 新八が言いたいことは、わかる。たしかに彼に言われた「好き」という言葉は自分の中に残っているし、言葉にすることは大切だ。でも。
「なんで姐御にそういうこと相談するアルかー!」
「げぶぉ!」
「私は押し入れで寝るアル!じゃあナ!」
「え、ちょ、げほっ、神楽ちゃ……!」
 勢いよく閉めた襖の音が気持ちいい。
(やっぱりダメガネアル)
 本気で嫌だったわけじゃない。姉にそういう話をしないでほしかったわけでもない。ただ、少し恥ずかしかっただけだ。
(……違う、私が素直じゃないだけネ……)
 あと四日で、伝えなきゃいけない言葉が二つになった。




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