子供っぽいかしら(1/4)



「たーだいま〜……あり?」



 いつもは明るいはずの部屋が、真っ暗であった。やさしい笑顔で迎えてくれる愛しの細君も、いつまで経っても姿を現さず。

 おや部屋を間違えただろうか、いやこの鍵で開いたのだから間違うわけがない。明かりをつけても人の気配は感じられない。おかしいな、と思い下駄箱を覗くが彼女の靴はない。


 ――まだ帰っていないのか。


 ふとカレンダーに目を向けると、今日の日付に丸がついていた。

 しばし考え、そして閃く。

 ああ、そういえば職場の飲み会があるとか言っていたような気がする。

 お酒に弱い彼女のことだから、きっと素面のままテキパキと料理を分けたりしているのだろう。お疲れさま、とつぶやいて俺はコップに注いだ水を飲んだ。



「亜子ちゃん帰ってくる前に明日の準備しとくかー」



 ひとり淋しくつぶやき、テーブルにノートを広げる。スイミングスクールでの練習メニューを考えねばならぬのだった。

 室内はしんと冷え、彼女のあたたかさを知る。彼女自身ももちろんあたたかいが、"彼女"という存在自体があたたかい。緑が芽吹くような、花が咲きそうな、そんなあたたかさを持っている。


 彼女より早く帰宅した夜は、随分と久しぶりだった。

 一人でこうして帰りを待つということは、こんなにも心細く不安なものなのか。


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