譲れないこと(1/2)



あつーい、と言いながらお風呂場から出てきた彼を見て固まってしまった。

何も着ていない。

正確には下着を身につけているのだけれど、上は何も着ていない。鍛え上げられた肉体を見事に披露していた。

あなたの裸は見慣れたはずなのに。

いざ明るい場所で(しかも不意打ちで!)目撃してしまえば固まるほかない。

そうとは知らずペタペタと歩み寄るあなた。
いつものように私の隣に座ってニコニコ笑う。

ようやく私の様子がおかしいことに気がついたらしく、「大丈夫?」と尋ねられた。

大丈夫じゃないから、固まっています。

と目で訴えてみたけれど、またあなたの裸体が目に入ってしまい、固まるとともに顔まで熱くなってきた。



「アッ!ごめん!実家のクセで……暑くなるとこう…このカッコで歩き回ります。」

「そう……」



もともとは別の家で生活をしてきたのだから、違うのは当たり前。
習慣が違うことを受け入れることも結婚。
なのだろうけど。



「服着て欲しい」

「やー、着ると汗びっしょりでもう、やばい」



私も譲らない、彼も譲らない。
お互いにこの件に関しては頑固だ。



「今日だけだよ」



と折れたのは私。

裸くらい。
寝るまでの2時間くらい。
あっという間だ。

――寝るまで?



「ね、寝るときは着るよね……!?」

「ん? 着ないね」

「えー!なんで、じゃあ私、今日……」

「俺の素肌にくっついて眠ることになりますね、ハニー!」



おいで!と言わんばかりに手を広げるあなた。

それを無視して目を逸らす。
目のやり場すらも困る。
逸らした先にちょうど観葉植物を見つけて、その葉っぱの枚数を数えた。



「ばか。えっち」

「エッチはちがうでしょ。べつに、暑いから着ないだけでスケベなコトは……って、亜子ちゃんはスケベなことを考えてるのかな?」



ふふん、と高らかに笑って私の視界に入り込む裸体。

日に焼けて小麦色。
6つに割れた腹筋。
お風呂上りでツヤツヤで、血色もいい。

思わずカーッと熱くなってしまい、手で顔を覆った。



「ちがうもん」

「そうですかそうですか」

「にやにやしないで」



ぽふ、と頭に私の大好きな手のひらが乗った。
心地よく優しくなでてくれる。

きっと私、頑固だけど単純なんだろうなあ。
もう嬉しくなってる。



「亜子ちゃんも一度やってみればいいよ、これ」

「パンツだけって絶対変な子だよ」

「ンッ、いや、上はなにか着ましょう」

「じゃあ鷹雪くんも」

「いや俺は着ない」

「なんで」



ポリシー、というものらしかった。
へんなの。


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