譲れないこと(2/2)
◎
夏の風呂上がりに半裸。
ここだけは譲れない長年の習慣。
物心がついた頃から父親は半裸だったし、母親も「それ下着じゃないの」って突っ込みたくなるような格好をしていた。
ばあちゃんもイケイケなときは同じような格好だったらしい。
血だ。
脈々と受け継がれてきた血。
だからここだけは譲ることができない。
たとえ亜子ちゃんが照れようとも(むしろ照れた顔が見たいのが本心)。
当の彼女は入浴中。
ドライヤーの音を響かせていることから、もうすぐ出てくるだろう。
「あついー」
とつぶやきながらお風呂から出てきた彼女を見て目を見張った。
本当にキャミソール1枚で出てきた。
いや亜子ちゃんもいかがと唆したのは俺だけど。
まさか本当に実践するとは。
半分冗談だったのに。
透け感のあるキャミソールは素肌を隠しきれていない。
胸元には何も着けていないのか(そういえばいつも寝るときは着けない派の娘だった)、ちらちらと何かが見え隠れ。
ちょうどフリルやレースが邪魔をしている。
その装飾を考えたやつを問いただしたい。
なぜその位置に付けたのか。
腰まであるキャミソールはお尻を隠しきれていない。
水色のさわやかな下着が、歩く度にちらちらと顔を覗かせる。
違和感や羞恥心があるようで、恐る恐る俺の隣に座る。
半裸の俺とキャミソール1枚の亜子ちゃん。
どんな組み合わせだ。
「これ、涼しいね。……ちょっとはずかしいけど」
「…………」
「た、鷹雪くん」
「……」
「やー!なんで何も言わないの、あっ、変な子だって思ってる!?」
「……」
見とれてる。
母親や妹がこんな格好でも何も思わなかったけど(いや、思っていたら変態だ。)、好きな女の子がこの格好をしているというのはなかなか……
ちらりと視線を移せば、サイズの大きいらしいキャミソールの胸元からゆるやかな谷間が見えた。
下肢に視線を移してもやわらかそうな太ももが俺を誘う。
「わぷっ」
「や、やっぱり亜子ちゃんは着てて」
俺が持たない。
近くにあった俺のTシャツを被せると、おとなしく指示に従ってくれた。
「えっちなこと考えてたんでしょ」
にやにやといやらしく笑う。
結婚してから亜子ちゃんの本性がわかってきた。
たぶん、家族と俺だけしか知らない、もしかしたら俺しか知らない、いたずらっ子な本性。
「ちっ、ちげえよ、全然!亜子ちゃんの胸元なんて見てないし」
「きゃー、えっちー」
「わざとでしょう」
ふふふ、と笑うだけ。
もう、この子は。
どこまでも俺の中心をくすぐる。
いけない子。
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不器用恋愛