譲れないこと(2/2)





夏の風呂上がりに半裸。

ここだけは譲れない長年の習慣。

物心がついた頃から父親は半裸だったし、母親も「それ下着じゃないの」って突っ込みたくなるような格好をしていた。
ばあちゃんもイケイケなときは同じような格好だったらしい。

血だ。
脈々と受け継がれてきた血。
だからここだけは譲ることができない。

たとえ亜子ちゃんが照れようとも(むしろ照れた顔が見たいのが本心)。

当の彼女は入浴中。
ドライヤーの音を響かせていることから、もうすぐ出てくるだろう。



「あついー」



とつぶやきながらお風呂から出てきた彼女を見て目を見張った。

本当にキャミソール1枚で出てきた。

いや亜子ちゃんもいかがと唆したのは俺だけど。
まさか本当に実践するとは。
半分冗談だったのに。

透け感のあるキャミソールは素肌を隠しきれていない。
胸元には何も着けていないのか(そういえばいつも寝るときは着けない派の娘だった)、ちらちらと何かが見え隠れ。
ちょうどフリルやレースが邪魔をしている。

その装飾を考えたやつを問いただしたい。

なぜその位置に付けたのか。

腰まであるキャミソールはお尻を隠しきれていない。

水色のさわやかな下着が、歩く度にちらちらと顔を覗かせる。

違和感や羞恥心があるようで、恐る恐る俺の隣に座る。
半裸の俺とキャミソール1枚の亜子ちゃん。
どんな組み合わせだ。



「これ、涼しいね。……ちょっとはずかしいけど」

「…………」

「た、鷹雪くん」

「……」

「やー!なんで何も言わないの、あっ、変な子だって思ってる!?」

「……」



見とれてる。
母親や妹がこんな格好でも何も思わなかったけど(いや、思っていたら変態だ。)、好きな女の子がこの格好をしているというのはなかなか……

ちらりと視線を移せば、サイズの大きいらしいキャミソールの胸元からゆるやかな谷間が見えた。

下肢に視線を移してもやわらかそうな太ももが俺を誘う。



「わぷっ」

「や、やっぱり亜子ちゃんは着てて」



俺が持たない。
近くにあった俺のTシャツを被せると、おとなしく指示に従ってくれた。



「えっちなこと考えてたんでしょ」



にやにやといやらしく笑う。
結婚してから亜子ちゃんの本性がわかってきた。

たぶん、家族と俺だけしか知らない、もしかしたら俺しか知らない、いたずらっ子な本性。



「ちっ、ちげえよ、全然!亜子ちゃんの胸元なんて見てないし」

「きゃー、えっちー」

「わざとでしょう」



ふふふ、と笑うだけ。

もう、この子は。
どこまでも俺の中心をくすぐる。
いけない子。


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