ホワイトクリスマスには程遠い。(1/6)



 ホワイトクリスマスには程遠く、夕焼けがあたりを真っ赤に染める頃。

 珍しく彼女が出掛けたいというものだからついてきたものの、やはりというべきか人混みが大の苦手な彼女は人の波に酔いに酔って青ざめた顔をしている。
 見ているこっちまで酔ってしまいそうだ。

 ぐったりとした彼女はガードレールで腰を休め、無心でココアをちびちびと飲みつづけている。

 あたりを見回せばちかちかと輝くネオンサイン。耳を掠めるジングルベル。行き交う人々は皆楽しそうでしあわせそうだ。そんな中、目をぐるぐると回している彼女を見ているとどうにも可哀相で。



「帰ろうか」

「でも……」

「来年リベンジ!……じゃ、だめ?」

「……むう」



 ふわふわしているように見えて、亜子ちゃんは結構頑固なところがある。真っ青な顔のまま頬を膨らませ、梃子でも動きそうにない。

 あたりが暗くなるにつれ、人の数もより一層増えてきた。彼女の顔もますます青くなる。ちなみにさっきから一歩も動いていない。



「今日じゃなきゃダメなの?」

「うん……」

「なんで?」

「……だって、……鷹雪くんと一緒になって、はじめてのクリスマスだから……思い出、つくりたくて」



 素直に驚いた。まさか、そんなことを考えていてくれたなんて。

 マフラーに埋めた彼女の青い顔が、少しだけ健康的な色に近づいていた。



「俺は亜子ちゃんとこうして一緒にいられるだけでうれしいよ。……だから無理しないで、帰ろう」

「……うん」

「うん」



 手を差し出せば、迷いもせず握ってくれる。人の波に流されてしまわぬよう、強く強く握った。つめたくて、ちいさなきみの手。



「イルミネーション見れなくても十分いい思い出だよ。亜子ちゃんが真っ青になって、結局見れなくて、こうして人の流れに逆らって家に帰ってさ」

「……ごめんなさい」

「いいって。何年か経ったらさ、きっと笑い話になってるんじゃないかなあ。ある意味忘れられない思い出?」



 亜子ちゃんは恥ずかしそうにマフラーの中に口を埋め、「ううぅ……」と唸る。「カッコ悪いもん……思い出さなくていいよう」



「……はは。じゃあさ」



 こんなこと言ったら、もっと恥ずかしがるかな? 怒るかな? そんなことを思いながら、あれこれと慎重に言葉を選ぶ。



「もっと、すごい思い出、つくる?」

「すごい?」

「家でさ、なんか……パーッと」

「うん!」



 たぶん俺たち、別々のことを想像してる。いじらしい程に純粋な、そんなきみが、好きだ。


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