ホワイトクリスマスには程遠い。(2/6)



 人が少なくなるにつれ、彼女の顔色が戻っていく。

 家につく頃にはもういつもの亜子ちゃんだ。

 耳元が真っ赤なことを除けば。それはたぶん、先程すれ違ったカップルが熱い抱擁と口づけを交わしていたから。



「はあ……つかれた」

「まだ寝ないでよ」

「どうして?」

「それは……いろいろ? パーッと?」

「パーッと?」

「……。まあいいや。ごはん食べて、そんでお風呂入ろ」



 身体冷えたでしょ、なんて言い訳を添えて。

 ようやくなにかを察したのか、また耳まで顔を真っ赤にさせた。「……たかくんのえっち」そうつぶやいて、俺の胸に飛び込む。やわらかくてちいさなこの身体を抱くのは、いつぶりだったか。



「ご、ごはん作るの、手伝ってね!」

「ん、たくさん食べなきゃだからね」

「……鷹雪くんて、ほんと、…………」

「なに?」

「なんでもない」



 本当はきみがなにを言いたいのか、わかっていたけれど。

 ちょっとした意地悪。

 栗色の髪をそっと撫でれば、下唇を隠してふふふと笑った。


 いつもより豪華な筈の晩飯は、これからのことを考えるとなんだか味を感じられない。

 たまに目が合えば頬を赤らめ、にこりと微笑む。俺も同じように笑顔を返せば、しあわせな気持ちが溢れ出して来るようだった。



「今日。お。お風呂は、一緒に、入る……の……?」

「やだ?」

「……恥ずかしい、けど。鷹雪くんが、そうしたいなら」

「ありがと」

「――あ!お、お風呂では、やだからね!」

「ははは、うんうん、ベッドでね、ゆっくりね」



 そう言うと、亜子ちゃんはがじがじとかじりついていたフランスパンを皿の上に落とした。

 顔はやはり真っ赤である。


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