コウノトリさん(2/3)



カーテンを閉じ、明かりが消された部屋。ぼうっと灯るベッドサイドの明かりがなんだか大人な雰囲気だ。
ベッドにふたり腰掛け、数分。

メガネを外した彼の瞳は、きらきらと、きらきらと潤んでいた。きゅ、と結ばれた、少し乾燥している唇。そっと開かれて、「お願いします」とつぶやく。私も同じ言葉で返した。

保健体育の授業は聞いていたけど、内容はあまり理解できていなかった。私とあなたに備わっているそれぞれの部位。男の子と女の子の部分。まさか、それをそんなふうに使うだなんて誰が想像できるだろうか。

またキスをして、少しの間見つめ合う。
少し動くだけでもベッドの軋む音がする。
これからのことを想像するとまだ恥ずかしくて、逃げようとすると彼の腕に捕まってしまう。
身体が敏感になっているのか、つま先が床につくだけでも大きく反応してしまった。

足を抱えあげられて、ゆっくりとベッドに押し倒されていく。

触れるだけのキス。

鷹雪くんの大きな手が私のほっぺを撫で、首へ、そしてブラウスのボタンへ。
不慣れな手つきでゆっくりと外されていく。
ひとつ、ふたつ。
そしてみっつ。

今日。このまま。あの時の――

4つ目の、ボタン。


「や、やっぱり……ちょっとまって、まって」

「ん……?」

「こころの、じゅんびを」

「うん」


熱に熟れた彼の緑色の瞳と、涙が溢れてしまいそうな私の瞳。ゆっくり交ぜあわせて覚悟を決めようとがんばってみる。

でも、こわい。それがまだ、大きい。

いつもは大好きな深緑色の瞳。今日は合わせるのがこわい。
私がもじもじとしていると、鷹雪くんはすっとズボンを下ろす。すんなりと脱げちゃうんだ。すごいなあ。
私はまだ、素肌をさらすのも怖いのに。

男の子の……初めてのときは全然余裕もなくて見ている暇もなくて、それ以前に真っ暗で。ぼんやりとした明かりのある今日、あらためて見てみると、それは凶器のようだった。


「あ、あううぅ……」

「どした?」

「そんなに、それ、そんなに……?」

「あー、うん」


さっきから生返事ばかり。
私の瞳ではなく、どこか遠くを見ているよう。
この先に待ち受けている行為のことばかり考えているんだ。えっち。ばか。――それでも、すき。


「……」

「あ、」


私が覚悟を決められずにいると、背中に腕が回って抱き寄せられる。

ああ、男の子の力だなあ。

ぐっと距離が縮まって、おなかとおなかがくっついた。逞しくて筋肉質なあなたのおなかと、ぷよぷよで恥ずかしい私のおなか。


「あの日、痛かった?」

「……」

「ごめん」

「鷹雪くんが悪いわけじゃ……」

「や、でも、結構むりやり」

「……きもち、よかった、よ……?」


痛かった、のは、事実だけど。
男の子と繋がる悦びを知ったのは本当。
きもちよくて、なにも考えられないくらい。あなただけを見つめていた。あなただけに見つめられていた。

鷹雪くんがずっと求めてきたこともわかる気がする。身体はもちろん、心の奥底からしあわせホルモンというものが溢れ出してくるのがわかった。心地よかった。心も身体もひとつになれた、それが嬉しかった。


「んー……」

「くすぐったいよ」


抱きついた彼の髪が耳元をかすめる。熱い吐息が私を刺激する。小さく声を漏らせば耳元で彼の声が。低くて、甘ったるくて、鼓膜がじわじわと揺れるのがわかった。「すき。」私もすきよ。あなたのこと。全部ぜんぶ。


「今日は痛くしないから」

「うん……」

「あ、赤ちゃん、どうしようか」

「え? これ、したら、できるんじゃ……?」


本当に私は世間知らずで、よくここまで生きてくることができたと自分でも思う。
ははは、と笑う彼。今日何回見てきただろう。


「高校のとき、避妊とか柏原が授業してくれたじゃん!全然覚えてないっつーか、理解できてないっつーか……亜子ちゃんかわいい」

「ごめんなさい」

「いーよ、それが亜子ちゃんだし。あはは、ここまでなんにも知らなかったとは。すげー」

「鷹雪くんがおしえて」


なにも知らない私に、ひとつずつ。
大人になるためのこと。大人になるということ。


「へへへ。亜子ちゃんえっちぃ」

「……鷹雪くんのせいだよ」


真っ白な私をあなた色に染めて。
あなたの瞳の色のように、綺麗な色に染め上げて。

私に覆いかぶさって、朗らかに笑う彼。
お酒も入って気分が良くなっているのだろう。
たまに頬ずりをして、少し伸びたヒゲがくすぐったいなあ、なんて思って。


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