はじめてのあさ(3/3)





気まずい。

あんな情けない姿まで見られてしまった。

小さなシミができてしまったシーツを洗いながら、お風呂に入っていった彼女を待つ。

俺も早くサッパリして邪念を吹き飛ばしたい。

シャワールームのすりガラス越し。
「鷹雪くん」と呼ぶ彼女の声。
極力見ないようにと意識をそらし、「ん!」と返事を。



「さっきはごめんなさい」

「あ!全然!」



やっぱり気づかれていた。
それからお風呂出るからちょっとだけ向こういってて、と。
なんだ。
裸のままでてきてくれると期待していたのに。
なんて、恥ずかしがり屋な亜子ちゃんがそんなことするわけないか。

お風呂から出てきた亜子ちゃんは色っぽくて、"大人になった"ような雰囲気が漂っている。
と思いきや、いつものようにへらっと笑ってあどけなさを演出している。

一線を越えたから。夫婦になったから。
なにかが変わってしまうような不安があったけれど。いつも通りの俺たちだ。

ただ、お互い意識してしまって、少しだけぎこちないだけ。
目が合わないだけ。
昨夜を思い出しては赤面するだけ。

彼女の香りが残るシャワールーム。
頭から水を浴び、邪念を吹き飛ばす。

身体の熱も、全部全部。

風呂から出れば台所で朝食(昼食?)の準備をしていた亜子ちゃん。

結婚前、何度かごはんを作ってもらったことはあったけれど。
今日はいつもと違う。
奥さんが台所に立っている。
それだけで、ドキドキした。

小気味よい包丁の音。
トントントン。
母親の包丁の音とはまた違う、亜子ちゃんの音。

なに作ってるのと背中に抱き付けば、「冷やし中華」と笑顔を見せてくれる。



「好き」

「ふふふ、よかった」

「あ!冷やし中華じゃなくて、いや、冷やし中華もだけど……亜子ちゃんも」



一度ぱちくりと瞬きをしてから、やわらかい頬がかあっと赤くなっていった。
相変わらずかわいい反応。
こっちまで照れてしまう。



「私も、すきですよ」



旦那さん、と小さな声で付け加えられた。
ふたりで赤面して、お返しにキスをしてあげた。

こんな風に、少しずつ、ふたりの生活が当たり前になっていくのだろうか。

夫婦と呼ぶには、まだまだいろいろと足りないだろうけれど。

誰もがうらやむ奥さんと旦那さん。
そんな関係になれたら。



「よかったら、今夜も。……あ!無理にとは言わないから!」

「また夜に、いってください」


真っ赤な顔のまま、ぷくっと頬をふくらませていた。
「また」ね。

昨日の夜の、彼女の笑顔。
また、思い出しては赤面してしまう。


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