はじめてのあさ(3/3)
◎
気まずい。
あんな情けない姿まで見られてしまった。
小さなシミができてしまったシーツを洗いながら、お風呂に入っていった彼女を待つ。
俺も早くサッパリして邪念を吹き飛ばしたい。
シャワールームのすりガラス越し。
「鷹雪くん」と呼ぶ彼女の声。
極力見ないようにと意識をそらし、「ん!」と返事を。
「さっきはごめんなさい」
「あ!全然!」
やっぱり気づかれていた。
それからお風呂出るからちょっとだけ向こういってて、と。
なんだ。
裸のままでてきてくれると期待していたのに。
なんて、恥ずかしがり屋な亜子ちゃんがそんなことするわけないか。
お風呂から出てきた亜子ちゃんは色っぽくて、"大人になった"ような雰囲気が漂っている。
と思いきや、いつものようにへらっと笑ってあどけなさを演出している。
一線を越えたから。夫婦になったから。
なにかが変わってしまうような不安があったけれど。いつも通りの俺たちだ。
ただ、お互い意識してしまって、少しだけぎこちないだけ。
目が合わないだけ。
昨夜を思い出しては赤面するだけ。
彼女の香りが残るシャワールーム。
頭から水を浴び、邪念を吹き飛ばす。
身体の熱も、全部全部。
風呂から出れば台所で朝食(昼食?)の準備をしていた亜子ちゃん。
結婚前、何度かごはんを作ってもらったことはあったけれど。
今日はいつもと違う。
奥さんが台所に立っている。
それだけで、ドキドキした。
小気味よい包丁の音。
トントントン。
母親の包丁の音とはまた違う、亜子ちゃんの音。
なに作ってるのと背中に抱き付けば、「冷やし中華」と笑顔を見せてくれる。
「好き」
「ふふふ、よかった」
「あ!冷やし中華じゃなくて、いや、冷やし中華もだけど……亜子ちゃんも」
一度ぱちくりと瞬きをしてから、やわらかい頬がかあっと赤くなっていった。
相変わらずかわいい反応。
こっちまで照れてしまう。
「私も、すきですよ」
旦那さん、と小さな声で付け加えられた。
ふたりで赤面して、お返しにキスをしてあげた。
こんな風に、少しずつ、ふたりの生活が当たり前になっていくのだろうか。
夫婦と呼ぶには、まだまだいろいろと足りないだろうけれど。
誰もがうらやむ奥さんと旦那さん。
そんな関係になれたら。
「よかったら、今夜も。……あ!無理にとは言わないから!」
「また夜に、いってください」
真っ赤な顔のまま、ぷくっと頬をふくらませていた。
「また」ね。
昨日の夜の、彼女の笑顔。
また、思い出しては赤面してしまう。
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不器用恋愛