わがまま。(2/3)



 少し乾燥した唇に何度か触れて、ふわふわの髪を撫でて。

 起きて、起きないで、ふたつの矛盾した気持ちがぶつかる。
 ひとつの賭けのようなもの。
 きっといま、あなたが目をさましてくれたら、素直になれる気がするの。

 ねえ、と少し長い間唇を味わえば、薄くまぶたが開いて私の背中を撫でる。



「……んあ、亜子ちゃん、いま」

「――、ごめんね。起こしちゃった」

「んーん」



 普段見ることのない、寝起きのぼーっとした瞳。じっと見つめれば、ゆっくり焦点があってくる。

「どうしたの?」とやさしい声とともに、あたたかい手が私の髪を撫でる。



「あのね、あのね、さむい……な」

「もっとこっちおいで」

「あのね、強く、ぎゅって」

「うん」

「だ、だいて、ほしいの……」

「んー……んえ!? あ、えっと、言い間違い、かな? はは、は」

「――ご、ごめんなさいっ」



 ああ、私、なにをしているんだろう。心の奥の方では彼を求めているのかしら。

 今日の私、どこかおかしい。身体があつい気がする。

 やっぱり、欲求不満?

 こんなことしちゃ、いけないのに。頭ではわかっているけれど。口から心臓が飛び出してくるのではないか、それくらい胸がドキドキして、くるしくて、落ち着かない。



「だめ……?」

「じゃ、ないけど――さすがにいまからは」



 彼がちらりと見た時計は午前2時を回っていた。当たり前だけど、いつもはぐっすり眠っている時間。明日もいつも通り仕事が待っている。

 わがままばかり。ごめんなさい、ごめんなさい。

 一生懸命謝りながら彼の唇に噛み付けば、そっと応えてくれた。


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