すぐに耳が手術されて、私の膝に戻ってきたくまよさん。
くまよさんの手術はこれで何回目だろう。
松本くんは私の膝にいるくまよさんに向かって、
「脆いなあ、くまよさん」
「ワタシが先生始めた年に買った。先生っつっても、精神科のな。でも3年しか経ってねえよ」
「へえ。苦楽を共にしたって感じ?」
将斗さんと会話をしながら、松本くんがくまよさんの頭をなでる。
ついでに私の顔ものぞき見、にこりとほほ笑んだ。
そんな何気ない行動に、いつもどぎまぎしちゃう。
数秒目があって、そしてすぐ目をそらした。彼の目はきらきらしていて綺麗だけれど、どうしてかずっと見ていると顔が熱くなる。吸い込まれそうになる。
「な、なんで保健室……えっと、くまよさん、耳ちぎれたってわかったの?」
「なんとなく。廊下歩いてたら柏原の声が聞こえたんだ」
「どうせ亜子ちゃん探してたんだろ。ストーカーさんよ」
「ち、ちがうよ!」
ふたりのやり取りを見ながら、顔の熱を冷ましつつ「幸せについて」もう一度考える。
幸せは掴むもの?
勝手に舞い込むもの?
どっちにしたって、私は幸せに嫌われてるから幸せになれっこないのかな。
掴んだってきっと、するりと手からこぼれ落ちていって。
嫌われてるから、私の元にはやって来ない……。
ため息をつきそうになって口を押さえた。
ため息をついたら、余計に幸せが逃げちゃう。