私がそんなことを考えていると、壱くんは「ちょっと読んでいい?」と訊く。邪念を振り払うとともに大きく頷くと、長い指で表紙をめくった。
最初はぱらぱらと小気味いい音を立ててページをめくっていき、しおりが挟んであるページで手を止めた。しばらく文章を読んだかと思えば辛そうな顔。それを不思議に思っていると、本と湿布が渡される。
「お願い」
本を片し、湿布の粘着面についている薄ビニールを剥がして目線をあげた頃にはもう壱くんは上半身裸だった。
思わず「きゃあ!」と変な声をあげてしまい、慌てて口を押さえる。
――やっぱり、苦手だ。
強くつむった目を恐る恐る開き、頭を下げた。
「す、すみません」
「いや……俺も、ごめん」
私と同じくらい白い肌が嫌でも目に入る。
あ……腹筋、割れてる。
思わず凝視してしまい、耳の端が熱くなった。
少しずつ目線を上げると、筋肉質な胸板。そして、少しだけ赤みを帯びた首筋。
照れたようにその首筋に触れている。
「俺だって、恥ずかしいんだよ? ヘーキなふりしてっけど……」
「だから早くしろ」とは言わなかったけど、そう言いたげな表情をしていた。
そうして私に背を向ける。広くて白い、その背中。
打撲したのはどこだろう、なんて考える暇はなかった。
キズアトが、真っ先に目に入った。