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■ ◆あたたかい手

「(空条・・・承太郎か・・・)」



強い奴だ。一回戦って、しかも負けたから分かる。彼は精神的にも肉体的にも実にタフで、不屈のスタンドを持つあらゆる意味で強い奴。だからこそ、今の俺―――いや、俺たちには分が悪すぎるのだけれど。



「また厄介な相手に憑りつきやがって・・・おい、じじいッ!先に言っておくがアヌビス神は真っ向から向かってくる正統派スタンドだッ!こっちの手の内を全部見せる前にぶちのめすに限るぜッ!」
「わかっとるわいッ!それよりも問題なのはアヌビス神に承太郎とポルナレフの動きを覚えられとる事じゃッ!」
「という事は、ここはぼくとジョースターさんで何とかするしかないって事ですね」



いやあ、その通りです・・・乗っ取られてごめんね・・・と彼らに声をかけようにも、今の俺の身体の主導権はアヌビス神にあるのでそれすらも出来ない。今の俺の状態を分かりやすく表すならば、真っ暗な映画館で席から映画を見ているような感じだ。体の感覚すら俺にはない。因みに画面は二画面で、ひとつは俺の目線、もうひとつは俺のスタンドの目線だ。

なので。



「(うわあ・・・、アヌビス神えげつねえ・・・)」



二視点から現在の状況を大体把握できる点は良かったのか悪かったのか。
遠距離型スタンドの2人に、これでもかという程距離をつめて戦うアヌビスな俺は、床までゲル化させてスタンドパワー全開状態らしい。俺自身をゲル化させ、体のあらゆるところからアヌビス神の刀を出し、相手を切りつけようとしている。これには花京院くん達も予想外だったらしい。俺も予想外だよ。てかそのスタンドの使い方、すごく体に負担かかるんだけど。ベットと同化コースなんだけど。

しかも俺よりもスタンドを使いこなせてるって、それどうなのよ・・・と複雑な気持ちになりながら、とりあえず俺は席を立った。いつまでもこうして大人しくしている訳にもいかない。地面がゲル化して非常に歩きにくいが、歩けない事もない。向かう先は、この暗い部屋のもう一つの対象物である非常口マークの付いたドアだ。ぬっちゃぬっちゃと音を出しながら歩き、ドアに自分の手を添えた時には、俺の体はもう腰のあたりまで地面に埋まってしまっていた。

ガタン。

ドアを開けようとしても鍵がかかっているのか開かない。思いっきり叩いても、ドアが波打つばかりで壊れる気配もない。パンパンと必死に叩き、ここから出してくれ!と叫んでみるけれど何も変化はない。腰まで来ているこれに飲み込まれてしまったら、おそらく俺はアヌビス神に完全に飲み込まれてしまうだろう。そうなれば、今以上にスタンド能力を使われ、ブレーキのかからない俺の身体は生命エネルギーを使い果たし、きっと限界を向かえてしまう。スタンドを使うというのは、それだけエネルギーを使う事なのだ。1日中出しておくことはおろか、俺は1時間でもキツイ。それが全力ならばなおさらだ。それだけは、避けなければ。なら、どうする。どうすれば、アヌビス神を追い出せる?

どうすれば・・・。

うんうんと考える。俺がアヌビス神と会ったのは一回のみ。その時アヌビス神が乗っ取ったのは、男一人と汐華様とハルノ。そのうち、アヌビス神の乗っ取りを解除したのは・・・、確か、ハルノのみだ。

そういえは、奴がハルノに憑りついた時、何があった?アヌビス神が弾かれたのは、何故だったのか。
必死こいて考えている間にも、体はどんどん飲み込まれていく。

頭に手をやって、俺はおもむろに自分のディスクを取り出した。
ええい、こうなれば一か八かだ。自分の命を賭けて、人一人分のエネルギーをアヌビス神にぶつけてみよう。どうせ、この状況を打破できなければ死、あるのみなのだ。もしかしたら完全に俺の身体を乗っ取られ、スタンドも取られてしまうリスクはあるけれど、やらないよりは遥かにマシってやつだろう。

そう思って、俺は思いっきり手を振り上げ、自分のディスクを地面に向かって振り下ろした。



―――地面が、呼応するように波打ち、急激な眠気に襲われる。



さあ、この眠気は目覚めのものか、それとも死のものか。
ただ、息のできない苦しさに顔は歪み、同時に、強く、死んでやるものかと思った。

俺はまだ、死ぬわけにはいかないのだから。





■□■




「無駄だねェ!この男の意識は完全に封じたッ!コイツの意識があるとテメーらをぶっ殺せねえからなあッ!俺は絶ッ…………対に同じたたらは踏まんのだァーーーーッ!クククククク!さあ!DIO様の為に死ねッ!」
「ジョースターさんッ!!」
「―――まったく厄介なスタンドじゃわいッ!ハーミットパープルッ!」



笑いながらぼくに向かってきた影崎さんが、むき出しの刃を手に持ち、一瞬で間合いを詰めて来る。
エメラルドスプラッシュを食らいながらも怯まないその男に更にエメラルドスプラッシュを撃ち込みながら、ぼくは後ろへ飛び、ジョースターさんが上へ飛んだ。
そして地面に潜ませておいたぼくのハイエロファントを地上へ出現させ、その体ごと拘束する、が!



「フフフフフ、今の攻撃・・・憶えたゼッ!そしてジョセフッ!きさまの攻撃も見えているぞッ!」
「なにィ〜〜〜ッ!!体からアヌビス神がはえてきおっただとおおおおおッ!?」
「チッ!スタープラチナッ!」
「ならん!承太郎ッ!」
「だがじじいッ!遠距離操作型のスタンドじゃあコイツのスピードはちときついぜッ!」
「だが承太郎!ぼくのエメラルドスプラッシュや触脚も影崎さんのスタンドで無効化されてしまう以上、物理攻撃が主なスタープラチナでも対抗できるか怪しいぞッ!」



腕にハーミットパープルを幾重にも巻き、波紋を流してアヌビス神の刃を弾いたジョースターさんが地面に手をついて着地する。ぼくもハイエロファントの触脚を伸ばして、それを伝って一旦距離を置くが、正直言ってここまで厄介な敵に会うとは思わなかった。しかもここは室内で、影崎さんのスタンドの弱点である水分蒸発も期待できない。承太郎のラッシュもスデに憶えられている。こうなれば、これだけはやりたくなかったが、ハイエロファントを人体の内側に忍ばせ、そこにジョースターさんの波紋でも流してもらうしかないのか。でも、そうなれば―――彼はきっと死んでしまう。



「花京院ッ!何か思いついたのかッ!」
「・・・・・ええ、ぼくが思いつく限り、これしか、ない筈です。ですが・・・」
「・・・」
「―――――・・・いえ、やりましょう。迷っている場合じゃあない」



もうここはDIOの館の中だ。ぼくらもいつ命を落とすか分からない。ぼくなんてさっきテレンスに魂を取られたばかりだ。
だから、やろう。それが、承太郎との戦い以来封印してきた、人にもぐりこませる方法だとしても。彼を―――いや。
思考を振りきって、本能のままに自分の分身の名前を叫んだ。



「ハイエロファントグリーンッ!」
「その攻撃はもうスデに憶えているッ!無駄だ花京院ッ!」
「そんな事は知っていたさ!ジョースターさんッ!正の波紋をぼくのハイエロファントグリーンにッ!」
「うおおおおおおおッ!わしが波紋を流す前に引きちぎるんじゃぞ花京院ッ!いくぞッ!」



ハイエロファントの触脚をジョースターさんに結び付けてから、波紋がぼくに来ない様に引きちろうとした、その時。



「ッ?!」
「どうした花京院ッ!」
「何か物凄い力で内側からハイエロファントが弾かれた・・・ッ!ッ、何をしてくるか分かりません!気を付けてくださいッ!」
「なんじゃとッ?!」

「―――、ゲホッ」



一気に肩の力が入り、承太郎までスタープラチナを出して全員で構えた瞬間。
目の前の男が、いきなり頭を押さえ咳き込んだ後、呼吸を整えるように大きく息を吐き出した。
そして、口が開く。



「くっそ・・・・・無茶苦茶やりやがって・・・・・」



先程とは違う、声を荒げる話し方ではなく、もっと普通の話し方。ウグッ、と苦しみながら血を吐き出した男は、苦々し気にスタンドのビジョンを見た後、それに触れてビジョンを消し、また咳き込んだ。

・・・何が、おこったのだろうか。
彼は今、一体”誰”なんだろうか。



「ゲホッ・・・ぐゥッ」



ゼーゼーと肩を荒げ、苦しそうに唸った彼は、大きく息を吸った後、ゆっくりとコチラを向いた。
びいん、と彼の体内から弾かれたアヌビス神の刀が床にぶっさりと突き刺さったのを見てハッとしたぼくは、その黒い目を見る。初めて会った時と同じ、ぼくの話を聞いてくれた時と同じ、少し苦し気な、でもきちんと人の血が通っている、僕の両親を思い出させる顔をしていた。



「・・・影崎さ、ん?」
「―――ああ、・・・ちゃんと生きてる」



僕の様子を見て申し訳なさそうにした彼は、困ったように笑った後、無事でよかったと呟いた。
だけど、俺はちょっともう動けないみたいだ。と、そう言った彼は、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。それに思わず手を伸ばしてしまった僕は、その手の温かさにほっとすると共に、彼はなんでこんな所にいるんだろうと疑問を持たずにはいられなかった。





あたたかい手





(いつかは、聞いてもいいだろうか)

まりも様リクエストありがとうございました!

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