突き抜けるような晴天の空。そこかしこから聞こえる剣のぶつかり合う音。
朝の訓練場は、澄んだ空気と心地よい緊迫感に包まれている。
俺は剣を持つ前の高揚感から抜け出すように、頭の上で指を組んで大きく背伸びをした。
 
「ようグレオニー! 今日は早いな」
「おー、昨日早番だったからたっぷり寝れてさ。そのせいかいつもより早く起きちまった」
 
掛けられた声に振り向くと、よく一緒に見張り番を任される同僚が剣を磨いている。
こいつの剣は俺の得物より幾分か小さい。よく手入れがされているようで、豆だらけの掌の中で日の光を鋭く弾く。

「へえ、珍しいこともあるもんだ。ああ、だから今朝はこんなに良い天気なのか」
「どうせ俺は雨男だよ……」
「はは、そう拗ねんなって。後で手合わせしようぜ」
「おう」

その後も顔見知りと挨拶を交わしながら、武器庫へと愛用の剣を取りに向かう。
握りの持ちなれた感触を手で確かめると、なんとなく心が落ち着くから不思議だ。
手合わせの前にまず準備体操をしなくっちゃな。
そう考えながら武器庫を出ると、小さな影が武器庫の扉の前をちょうど横切る瞬間だった。

丸い後頭部を包むさらさらとした赤褐色の髪。
グレオニーの存在に気付かず、ただ前方を見つめる空色の瞳はくりくりと大きい。
まだ未分化の体は小柄で、頭のてっぺんはグレオニーの胸元までしかない。
そして、目の前の人物を特徴付ける一番の存在は、小ぢんまりとした額に鎮座する輝かしい印だ。
 
見下ろした旋毛とふっくりした頬に思わず口元が緩む。
ぽてぽてと進むそのちびの肩をぽんと叩き、その名を呼んだ。
 
「レーハト」
「っ! …グレオニー!」
 
ほんとに全く俺の気配に気づいていなかったのだろう。
子どもは一度びくりと肩を震わせ、しかし声の主が俺だとわかると満面の笑みで飛びついてきた。 

「こんな早くから訓練か?」
「うん!」
「そっか、偉いなあレハト」
「あはは、くすぐったいよグレオニー」
 
青空の一等綺麗なところを切り取ったみたいな瞳に見つめられると、なんだか照れくさい。
小さな頭を指でわしゃわしゃ撫でると柔らかな髪はあっというまに鳥の巣だ。
それでもレハトは少しも嫌がらずにきゃっきゃと笑うもんだから、俺はもう堪んなくなって、でっかい声で叫びたくなっちまう。
 
ああ、俺の弟はなんて可愛いんだろう!
 
「ねえグレオニー、僕と手合わせして!」
「おー、いいぞ。だがその前にまず筋肉を解さなきゃだめだ」
「はあい」
 
剣を持っていない方の手を、レハトのちっこい手がきゅうとつないでくる。
悪い同僚、お前との手合わせはレハトの後だ!
ついさっき約束したばかりの厳つい顔を思い浮かべて、頭の中で手を合わせる。
本当なら先約を優先すべきなんだろう。だけどさ、見てみろよ。
ちらと隣を見下ろす。
まっすぐ前を見ていたレハトは、けれどすぐに俺の視線に気づいてこっちを見る。
なあに、そう問いかけるような瞳に笑みを向けると、つられたようにふんわりと笑う。
な、こんな可愛いのを無下にできるわけないだろう?
まろい頬を指の背でそっと撫でた。
 
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