目の前の映像が突然切り替わる。
色とりどりのドレスの裾。その隙間を飲み物の乗った盆を持って練り歩く召使。
人ごみの中心ではリリアノがゆったりとした笑みを浮かべている。
きょろきょろと視線を動かす。どうやら自分が立っているのは入り口の辺りのようだ。
首を提げて自らの衣裳を見下ろすと、やたらときらびやかな男性型のドレス。
(そういえばこれ、結局一度しか着なかったな)
手首にまとわりつくレースが鬱陶しい。
人ごみの中には現在ではあまり城に来なくなった貴族なども居て、懐かしい気持ちで観察す
る。
そんなとき、すぐ後ろにある扉が開く音がした。
特に気に留めず、ぼんやりとドレスの波を見つめていると、後ろからぽんと肩を叩かれる。
ヴァイル。
同時に聞こえた声に慌てて振り向いた。
「こんばんは、ヴァイル」
「……レ、ハト?」
そうだよ。
細まる目も動く唇も聞こえる声もすべていつも通りのレハトだった。
すっかり出された額にはもちろん印がある。
「……ど、どうして」
「ふふ、驚いたかい」
細かい柄が織り込まれた布。
胸元でふわりと膨らんだそれは腰元できゅ、と絞り込まれている。
その下からはまたゆったりと膨らみ、脚を覆い隠して床まで届いている。
襟ぐりは大きく開き、華奢な鎖骨が見えて。
長い袖は手元で広がり、細い手首を更に細く見せた。
頬を隠す髪は片側だけかき上げられ、そこに小さな花の飾りがつけられている。
ヴァイルは真白な首筋から必死に目をそらした。
「だって、あんたいつも男性型しか着なかったのに、」
「今日は分化前最後の舞踏会だからね」
はっきりさせておく必要があると思ったんだ。
レハトはまとわりつく周囲の視線をものともせず優雅に笑った。
「ねえ、ヴァイル。僕はどちらを選ぶと思う?」
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