***
 
 
温かな体温が頭にふれ、幾度も髪を梳かれる。
急速に意識が引き戻されてヴァイルはゆっくり瞳を開いた。
 
 
「おはようヴァイル」
「……ん、はよ、レハト」
 
 
起こしてしまったね。
申し訳なさそうに目を細めるレハトの顔を見上げながら、瞬きを繰り返す。
 
右頬に柔らかな感触。
少し顔を動かすと、それがレハトの二の腕であることがわかる。
重いでしょ。
呟くヴァイルに、レハトはちっとも、と笑った。
 
レハトと結婚して、初めのころはこれでは男女が逆だろうと毎朝騒いだものだったが。
今ではヴァイルはすっかり諦めて、彼女のされるがままだ。
左腕をヴァイルの頭の下に敷いたまま、右手でヴァイルの髪を梳くレハトを見上げる。
 
寝台に広がる長い黒髪。
鼻の先にある胸は控えめながらも確かに膨らんでいる。
 
レハトだ。
夢から抜け出ていることを確認して、ヴァイルは安心したように息をついた。
 
 
「どうかした?」
「んーん、ちょっと懐かしい夢見ただけ」
「懐かしい夢」
「うん、まだ俺とレハトが分化する前の夢」
 
 
朝の静かな空気の中、ゆったりと声を交わしていると、寝室の扉が3回小さく叩かれた。
 
 
「ヴァイル様、レハト様、お早う御座います」
「ああ、お早う」
「お召し替えの準備が整いました」
「わかった。支度が出来たら行くよ」
「お待ちしております」
  
 
侍女の声に返事をした後、名残惜しそうに一度ヴァイルの後ろ髪を撫で、優しく左腕を頭の

下から引き抜いて、レハトは寝台から立ち上がった。
窓の外を見ながら大きく伸びをする彼女の姿は、ヴァイルと同様に未分化のときより背が伸

び、全体に女性らしい丸みを帯びている。
自らもようやっと寝台の上に身を起こしながら、ヴァイルは思いついたようにレハトへと声

をかけた。


「そういえばさ、ずっと不思議だったんだけど」
「なにがだい」
「なんであんたが男を選ばなかったのか」
 
 
夢の中で見た情景を思い返す。
未分化最後の舞踏会、今までとは違い女性型のドレスで現れたレハトは貴族たちを大層驚か

せた。
結局そのまま女へと分化したレハトだったが。
当時ヴァイルを含め周囲の人々は当然のようにレハトは男を選ぶものだと思っていたため、

突然の心変わりに皆首を傾げたものだった。
 
背中から掛けられた問いにレハトはくるりと振り返る。
自然と窓を背にする形になり、レハトの表情は陰になってよく見えない。
ふ、と息が漏れる音がしたのでおそらく笑みを浮かべているのだろうとヴァイルは心中で予

想した。
 
 
「衣裳部屋で会った日のこと、覚えている?」
「うん」
「あの日ヴァイルは言っただろう、男が良いって」
「……うん」
「だからだよ」
「え?」
 
 
さ、さ、と足が絨毯を擦る音が鳴る。
寝台の前まで近寄ってきたレハトは、あの日のように俺を見下ろして首を傾けた。
 
 
「私はね、好きな子の願い事はなんだって叶えてあげたいんだ」
  

そのまま降りてきた唇が、旋毛の上に落とされる。
滑らかな指で頬を辿って、至近距離でレハトはほほ笑んだ。
 
 
「さ、そろそろ着替えに行こう。ヴァイルのお腹が悲鳴をあげるといけないからね」
 
 
ぱ、と身を翻し、扉へと向かう。
艶やかな黒髪が動きに合わせて揺れた。
しばらく呆然としていたヴァイルは、かっと耳まで赤くなった顔を寝台に突っ伏して。

彼の心臓が鎮まったのは、しびれを切らした従者が部屋の扉を勢いよく開く頃だった。
 
 
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