廊下を通る時は走らない!

小さいころから何度も言われたセリフを、従者が叫ぶ声が聞こえる。
すれ違う家来たちは驚いたように目を丸くしていたり、はたまたくすくす笑っていたり。
そういうの全部追い越して、屋上へ続く階段を目指した。
 
成人して、王になって。そして王配が決まって、もう2年が過ぎた。
念願通り男に分化した俺は、もうすっかり立派な成人男性になった、と思う。
背はタナッセより高くなったし、暇を見つけては訓練場に通ったおかげで筋肉もついた。
目標にはまだまだ遠いけど、それでも結構いい線いってるんじゃないかと思ってる。
着々と想像していた未来へと近づいている中、俺には一つだけ不満なことがあった。
それは、王配、レハトと中々会うことができないってことだ。
 
王を選定するとき。叔母さんの頭を散々悩ませたくらいに、レハトはわずかな期間で『王候補』に相応しい人物へと成長した。
結局少しの差で俺が王に選ばれて。
その前日に、その、想いを伝えあった俺たちは、夫婦になって。
当然レハトは王配っていう地位についた。
 
王様ってのは、俺が思ってたよりずうっと忙しかった。
叔母さんはよくあんなに余裕な態度で居られたよなって今になってちょっとだけ尊敬する。
毎日毎日いろんな貴族と話し合って、国中で起きてる問題に対応しなきゃならない。
一応俺だって、城に連れてこられた日からそれなりに王になる勉強をしてたわけで。
よくもまあこうも毎日山ほど問題を持ってこれるもんだってうんざりすることはあっても、まあなんとかこなしていけてる。
だから、忙しいこと自体にはそんなに文句はない。言ったってしょうがないことだしね。
不満なのはそこじゃなく。
レハトが俺のそばに居ないってことだ。
 
レハトを王配にしたとき、これで毎日隣に居られるんだ、って思った。
どんなに大変でも、レハトが居るんだったらいいや。なんてことも思ってた。
でも、現実はそんなに甘くなかった。
 
元々王になるための訓練を積んでいたレハトは、その経験を生かし俺の仕事のフォローに回るようになった。
それは忙しくて手が離せない俺の代わりに領地へ視察に行ったり、他国からご機嫌伺いの目的で送られてきた使者の接待だったり。
俺が城に籠って仕事をしている間、レハトもあちらこちらへ飛びまわって仕事をする。
その結果、二人で居られる時間はめっきり減ってしまった。
 

屋上へと上る階段にたどりつく。
あまり人の寄り付かない此処だ、今も人の気配は無い。
走ってきた勢いのまま階段に足をかける。
 
 
昨日も、朝からレハトは仕事で城を離れていた。
帰ってきたのは夜遅く、俺が寝付いた後だったらしい。
「おやすみ」を言えなかったさみしさにもんもんとしながら二人で食事をとっているとき、レハトが思い出したように口を開いた。
 
「そういえば、今日は珍しく仕事が少なくてね。お昼からは休みなんだ」
「そうなんだ……、えっ」
 
流してしまいそうになった言葉に、慌てて顔をあげた。
お昼から、休み。ってことは、お昼からはレハト、ずっと城に居るってこと?
思わず訪ねた俺に、レハトは微笑んでうなずいた。
この半月ほど、二人で過ごす時間は皆無に等しかった。それなのにこんな機会逃すわけにはいかない。
 
「じゃあ、じゃあ、お昼一緒に食べない?」
「私は大丈夫だけど、ヴァイル、仕事は?」
「だ、大丈夫、今日はいつもより少ないし。お昼までに全部終わらすから、ね!」
「……ん、わかった。じゃあ、お昼になったら屋上に集合しよう」
 
準備は私がしておくよ。そう笑ったレハトはきっと俺の仕事が本当は少なくなんかないことを気づいてたんだろう。
 
「楽しみにしてる」
「……俺も」
 
それから。
レハトとの時間だけを糧に俺はいまだかつてないほどの勢いで仕事をした。
最初は「いつもこうやってがんばってくだされば、もっと早く終わりますのに」なんて嫌味をこぼしていた従者も、
最後の方は「そんなに急がなくても」なんてらしくない言葉をかけてきた。
それくらいがんばったおかげで、なんとか昼前に仕事は終わった。
だけどそれはほんとにぎりぎりの時間で。
だから今こうやって走っている。
 
 
>>2

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -