***
 
 
ざわざわと人波が揺れる。
昼下がりの市場は盛り上がりのピークを越え落ち着きを取り戻している。
先ほどまで警備を任されていたが、交代の時間が来たため今は適当に店を冷やかしている。
『雨乞い人形』やら『強くなる薬』やら、レハトの好きそうなものを見かけるたびにあの可愛らしい笑顔を思い出して嬉しくなる。
 
先日、訓練場で抱いたどす黒いもやもやとした気持ちは、今ではすっかり鳴りを潜めていた。
レハトのことをいやらしい目で見る奴らがいたとして、何か問題でもあろうか。
いいや、ない。だって、俺が居るのだ。
レハトを汚そうとする者が居るのならば、俺が守ればいいだけのことだ。
答えは何とも単純なことで、そしてその単純な解は俺の怒りをあっと言う間に鎮火して見せた。
 
人波を掻い潜りながら進むと、ちらりと隙間から小さな赤茶けた頭が見えた。
ふらふら揺れるそれを見て思わず笑みがこぼれる。
レハトと親しくなってから、俺はすっかりあの色に敏感になってしまった。
 
近づいて細い腕をそっとつかむと、ぱっと振り返った空色の目が俺を捉えた。
 
「あ、グレオニーだ」
「よおレハト、あ、いや、レハト様」
 
くるりと見上げる瞳に思わずいつものように声をかけ、慌てて呼び名を変える。
レハトはにこにこと嬉しそうに笑みを浮かべながらそんな俺を見た。
 
「グレオニーはお仕事中?」
「いいえ、さっき終わったばっかりです。今は適当に店を見て回ってた所で」
 
ふうん、そっけなく返事をしながらもレハトの顔は相変わらずふんにゃりと笑ったままだ。
かわいいなあ。
緩んでいるだろう口元をそのままに、そっと柔らかな頬をさする。
ちらりと目に映ったレハトの右手には、何か菓子が入った袋がぶら下がっていた。
 
「それは?」
「ああ、これ、仲良くしている商人にもらったの。手作りの焼き菓子なんだって」
 
おいしいよ、グレオニーも一緒に食べよう。
明るい声に思わずはい、と答える。
 
とはいえここは市場のど真ん中だ。
先ほどから立ち止まって話し込んでいる俺たちを、客は迷惑そうな目をして避けていく。
どこか座れる場所でもあれば良いのだが。
きょろきょろと見渡す俺の指を、白い指がくいくいと引っ張った。
 
「あっち、秘密の場所があるの」
「秘密の場所?」
「うん、そこなら人も来ないし」
 
ね。そう言って俺の手を引くレハトに、俺は特に抵抗もせずついて行った。
 
 
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