■Home sweet home


「なぁ、清水。明日ヒマか?」
「うん。明日は学校休みだし、ソフトの練習も午前中で終るから大丈夫だけど。」
「じゃあ明日、ちょっとでいいからウチ寄ってけ。実はちょっと…お袋が、な…」
「えっ…、お母さんがどうしたの本田!?何かあったの!?」

少し口ごもりながら話す様子の吾郎に薫は不安を感じて心配になって尋ねる。
吾郎は気まずそうに横を向いて頭をかきながら答えた。

「…うるせーんだよ、最近」
「元気なの?良かったー。…ていうか、結局なんなんだよ?」
「『清水さん、ウチに連れてきなさい』ってよ。」
「え?」
「お袋が、お前に会いたいらしいぜ。」

その理由を聞いて目を丸くした薫は、照れ臭そうにしている吾郎をそのまま見つめていた。



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次の日の午後、練習帰りに途中で買った手土産のお菓子の袋を片手に薫は茂野家へと向かいながらぼんやりと考えた。
吾郎の母親である桃子とは小学校の頃から、そして福岡から吾郎が戻ってきてからもその家族たちと何度も顔をあわせているのだが、改めて「吾郎の彼女」としての自分はまだきちんと会ってなかったような気がする。

(確かに本田と付き合いだしてからは、お家に行ったことなかったよね…)

ということは、自分に課せられた本日の任務は「彼氏のお家にご挨拶に行く」ということなのだ。
そう思うと見知った間柄であっても自然と少し体に力が入ってくる。
ほどなくして目的地に着くと、さすがは元プロ野球選手の家、というべきか。
そのどっしりとした立派な外観をしている吾郎の実家に気圧されるような気がして、やや緊張した面持ちで薫はそのインターホンを押した。
それを勢いよく出迎えたのは明るい笑顔の女性、吾郎の母親だった。

「まあ、いらっしゃい清水さん!」

いつもと変わらず快く受け入れてくれる桃子の笑顔に薫はホッとした。
吾郎はもちろん、その家族も薫は好ましく思っているので、今日の自分はあまりに緊張しすぎているのかと自分が少しおかしくなった。
桃子は薫の手土産に感謝を伝え、そのまま部屋へと案内しながら、うきうきと矢継ぎ早に話をする。
今までそういうことに疎かった吾郎に彼女ができ、それが昔から知ってる薫だというのがとても喜ばしいのだった。

「清水さんと付き合うようになったって聞いて嬉しかったのに、なかなか連れてこないから愛想つかされちゃったんじゃないかしらと思って心配してたのよ。もー、あの子ってばいつもあんな感じで野球本意でしょ?鈍感だし、口は悪いし、頭も悪いしで……でも良かった、こうやって遊びに来てくれて。」
「アハハ…」

母親からの息子の評価は散々なもので、しかしその言葉に少なからずは思い当たるふしがある薫は苦笑いを溢していた。
すると、後ろからすかさず不機嫌そうな声がした。

「あのなぁ…なに人の悪口言いまくってんだよ。」
「あら、吾郎。ここにいたの。」
「いちゃ悪いかよ。誰かがあんまり毎日毎日やかましいから呼んでやったんだろーが。もう気が済んだだろ。いーからあっち行けよ。」
「フーン。母さんにそんな口聞いていいの?」
「な、なんだよ…」

笑顔の母親の目が一瞬キラリと光って、薫の方へと向きを変える。

「あのね清水さん。今はすましてるけど、この子さっきまでずっとバタバタ片付けしてたのよ珍しく。特に自分の部屋ね。まったく、いったい何を隠してたんだか――ー」
「だあ――っ!うるっせぇな、もういいだろが!さっさと行けよ!」
「ハイハイ。じゃあねー清水さん。ごゆっくり。襲われないように気を付けてねー。」
「…っ…出てけ!」

照れと怒りで真っ赤な息子に満面の笑顔を向けて満足そうに母親は部屋を出ていった。
当人にしてみれば、彼女の前で親にからかわれる程居心地の悪いものはあったもんではなく、この上なくイライラしている吾郎はむっつりと押し黙ったままだ。
残された薫はどうしていいかわからず、所在無さげにその場に立ちつくしている。
…と、そこに声をかける小さな姿があった。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん!」
「あ、真吾君。あれ、そっちは…」

薫は男の子の後ろに隠れている更に小さな女の子の姿を見つける。
もじもじしているがこちらを興味深そうに見つめる瞳が可愛らしく、どこか桃子に似ていて、きっと吾郎の妹なのだとすぐにわかった。

「うん、こっちは妹のちはるだよ。3歳。な?」

紹介された女の子は恥ずかしそうに兄の背中から顔を出し、そのままコクンと頷いて小さな三本の指を見せた。

「おねえちゃん、だれ?…なんさい?」

可愛らしい兄妹に笑みを溢しながら薫は答える。

「よろしくね、ちはるちゃん!お姉ちゃんは「しみず・かおる」って名前で、吾郎兄ちゃんと同じ19歳だよ。」

続けて真吾が質問する。

「ねぇ、お姉ちゃんは吾郎兄ちゃんのコイビトになったの?」
「えっ?…あの…まあ…そ、そうかな…」

面と向かって聞かれるとまだ何だか気恥ずかしい。
例えそれが子供相手だとはいえ、自信を持って言えるほどにはまだ慣れていない薫は目線をチラッと吾郎に向けると、本人は何も言わずいまだにブスっとした顔で後ろの椅子に座っている。
そんなふたりの様子に構わず、純粋な子供の質問攻めはまだまだ続く。

「じゃあお姉ちゃん、吾郎兄ちゃんといつケッコンするの―?」
「は…?け、結…!?」
「もうエッチしたー?」
「エッ…ええっ!?」

言葉の意味をわかっているのかいないのか、無邪気な子供からの予想外な質問の応酬に薫は真っ赤になって絶句する。
それと同時に後ろで大きな音がした。
薫が振り返ると吾郎が思いっきり椅子からころげ落ちていて動揺が目に見えてわかる。

「…っ、真吾!こんのマセガキ、どこで覚えた!んな言葉!」

幼い弟の頭に容赦なく落ちる大人気ない兄のゲンコツ。
もちろん力の加減はしていたとは思うが、突然の出来事に驚いて弟は頭を押さえながら泣き出した。
それにつられたのか妹までもが涙目になっている。

「いたあぁーい!」
「うわぁーん。」
「オ、オイ本田!何も殴ること…」
「あーもう、うるせー、うるせー、うるせーっ!!」

先ほどから続く、このあまりにも恥ずかしい状況に耐えられなくなった吾郎は10件隣まで響く様な、一番うるさい声で叫んでいた。






騒がしい部屋の扉の向こうでは


(…結局、どこまでいってるのかしら…あの子達ってば…)


お茶とお菓子を持ってきた桃子が聞き耳をたてていた、とも知らずに。







親公認のふたりが書きたかったのです。

桃子かーさんと薫は絶対仲良くやってける嫁姑ですよね。
ちはるちゃんこの時点で3歳というのは当たってるのかでしょうか?(ま、深く考えないで下さると有難い。)
茂野パパも加えて、茂野家一家総出で吾薫いじりをしたかったのですが、その前に吾郎がもちませんでした。


茂野パパの吾郎いじりを読みたい方はコチラから(笑)


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