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淡い光が眩しい。ゆらゆらと水の中から水面の光を見ているようだ。息苦しくて胸が痛くて、水から上がりたくて手を伸ばした。水と空気の際に触れる前に、その手は誰かに触れた。

「──起きたか、カファロの」

デジャヴュな台詞を聞いた。すこし掠れた低い声が、アンネッタ、と誰かを呼んだ。少しの静寂がキーンと耳を刺す。ナマエ、と私の名が呼ばれた。ぼやけた目を動かし返事をすると、瞼が引き攣るように震えた。
薄いため息と共に、皮膚の硬い手で視界を覆われ瞼を閉じさせられた。しんしんと音だけの世界になる。生ぬるい息を吐いて、生ぬるい息を吸う。ピッピッという電子音が心臓音のようだった。

「まだ寝ていなさい」






袋に入れられ叩かれる、まさに袋叩きとはこのことだなあと思ったところまでは覚えていた。次に起きたときには病院で、白い壁がいつかを思い出させる。もっとも、ボルサリーノのおじさんは来なくて、代わりにゴツい指輪をつけ杖をついたおじさん──ペリーコロがきた。

「目は覚めたな」

ペリーコロは水差しからコップに水を注ぎ、それを私に差し出した。しかし腕を動かそうしても、ガチガチに全身が固まっていて指ひとつ動かせない。瞼を動かして意思を伝えると、ペリーコロは「スタンドはどうした」と言った。ああ、そうだ、ゲンさん。心の中で呼んでもゲンさんの気配は無く、視界が重なることもなかった。お休み中らしい。否定の意味で二度瞬きをすると、ペリーコロは何も言わず水が半分入ったコップを元の机に置いた。

「ポルポの元で生きたかと思っておったが、わしの過大評価だったようだ」
「……」
「しかし、おつかいをした点では褒めることとしよう。お前がポルポに渡した紙は、お前の腹に空いた穴を埋め、子犬をポルポから一時預かっても良い価値のある紙切れだ」

ペリーコロが指からひとつ金色の太い指輪を外し、チェーンに下げた。そのチェーンが私の首にかけられる。コンコン、と部屋のドアがノックされた。ペリーコロが入れと低く言うとドアがガチャリと開く。

「失礼します。ペリーコロさん、朝の集金を……ナマエ!」
「喧しい」
「し、失礼しました!」

白いシャツに黒いパンツ、茶色いベレー帽のようなものを被った男がぶちゃらてぃだと、声を聞くまでわからなかった。ぶちゃらてぃは私をみて目を丸くした。ペリーコロに怒られ、壁際に立ち集金の報告とヤラをしている。が、その視線は私から離れず、私もまた彼を見つめ返していた。ぶちゃらてぃ、少し痩せたのかもしれない。頬や顎がしゅっとしていて、でも前よりも背が伸びたような気もする。私がベッドの上にいるから余計にそう思うのかもしれない。
ペリーコロはぶちゃらてぃの報告を聞くと席を立った。私の頭を一度撫でて、「休んでいなさい」と部屋を出ていく。ぶちゃらてぃは泣きそうな顔で笑って「よかった」と言い、ペリーコロの後についていく。部屋に残された私は、自由のきかない体をどうしようかと考えているうちに眠ってしまった。痛くない泥の中に沈む心地だった。

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